研究概要 |
本研究ではまず,連続・離散のハイブリッドシステム論に立脚し,人間行動に含まれる操作と,曖昧さを含んだ判断を,観測データのみから抽出可能なモデルの構築手法を確立した.具体的には,人間が複数の操作モードを持ち,これらを切り換えながら行動する,との仮定から,各々の操作を複数の外性入力付自己回帰モデル(ARXモデル)として,これらを切り換える判断は,判断の確率的なばらつきを表現可能なソフトマックス関数として表現したモデルである"確率重み付きARXモデル"を提案し,そのパラメータ推定手法を確立した.本モデルでは各時刻でどの操作モードにより行動しているかの確率が推定可能だが,この確率に基づいてエントロピーを計算することで,モデルのモード(すなわち人間の判断)の曖昧さを,観測データのみから客観的に評価できる. 次に,著者らが保持するドライビングシミュレータを用い,眠気状態にある被験者と,通常の被験者の運転状態を観測し,観測データから,提案モデルを通してエントロピーの算出を行った結果,眠気状態にあるほどエントロピーが高い傾向が得られており,判断が曖昧になっている事が示唆された.一方で,運転中の被験者の脳波に着目すると,眠気の指標と言われる,脳波におけるα波帯の増加現象が確認されており,脳活動の低下とエントロピーの間には関係性が見られた. 本研究は行動データから客観的に観測される判断特性と,生体信号から得られる内部状態との整合性が確認され,行動データに基づく人間行動解析にエビデンスが与えられたという観点から極めて有意義な成果であり,今後の継続的な研究,発展が期待される.
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