研究概要 |
幹細胞の未分化性に密接に係わる糖鎖として知られるLeX抗原に注目し、LeX抗原を含有するN結合型糖鎖の中で真に機能を有する分子の同定と、その生合成を司る糖転移酵素遺伝子の特定を目指して、本研究を提案した。糖鎖抗原の生合成制御の観点から、幹細胞の未分化性維持の分子機構を明らかにしようとするものである。 これまでに知られているLeX抗原生合成を司るα1,3-フコース転移酵素遺伝子(FUT4, FUT9)に加えて、新規α1,3-フコース転移酵素遺伝子FUT10の発現解析を行ったところ、発達期のマウス脳で神経幹細胞が存在する脳室下層には、FUT10のみが発現していた。そこで、FUT10を発現ベクターにクローニングし、マウス神経芽細胞腫Neuro2a細胞に強制発現させて、3次元HPLCシステムを用いてN結合型糖鎖を網羅的に解析したところ、ユニークなLeX抗原を含有するN結合型糖鎖が増加していた。FUT10がα1,3-フコース転移酵素活性を有することは、新規の知見である。in vitroフコース転移酵素アッセイの結果も踏まえ、FUT9が非特異的に非還元末端のGalβ1-4GlcNAcを認識してLeX抗原を生合成するのに対し、FUT10は厳密な基質特異性を有すると考えられた。次に、miRNAを用いて、FUT10をマウスES細胞でノックダウンすると、未分化性が維持できなくなることを明らかにした。さらに、子宮内電気穿孔法によって、マウス胎仔大脳皮質の神経前駆細胞においてFUT10をノックダウンしたところ、神経前駆細胞の分化および移動に障害が起きることも見出した。これらの結果は、FUT10が生合成するユニークなLeX抗原含有N結合型糖鎖が、幹細胞の未分化性の維持に深く関わることを示唆する。
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