研究概要 |
運動時,筋グリコゲン(GLY)は運動の強度や持続時間に依存して減少し,運動後に十分な糖質を摂ることで超回復する.さらに、トレーニングを積むと筋GLY貯蔵量は高まる.一方,脳GLYは定量が困難なため運動時の代謝は全く不明であった.しかし最近,高エネルギーマイクロ波(HMW)の導入により正確な脳GLY定量が可能となり,脳GLYが低血糖や急な神経活動の増加により分解・利用されることが明らかとなってきた.長時間運動は低血糖を引き起こし,中強度(乳酸閾値,LT)以上の運動は脳全体の神経活動を増加させることから,脳GLYは運動時に脳のエネルギー基質として分解・利用される可能性がある.本研究では,HMWによる脳GLY定量法を確立し,運動時の脳GLY代謝を解明することを目的とした.まず,11週齢の成熟したWistar系雄性ラットをイソフルラン麻酔の後HMWで屠殺することで,脳GLYの精確且つ安定した定量を可能とした,次に,ラットをトレッドミル走行に馴化させた後,分速20m(LT強度付近)の走運動を行わせ,運動前,運動30,60,90,120分,運動後3,6,24時間にそれぞれHMWにより屠殺し,脳(全11部位),筋(ヒラメ・足底筋),肝臓を採取しGLY定量に供した.併せて血糖値も定量した.血糖は運動中盤まで維持され120分で減少したが,運動直後の糖質摂取によりすぐに回復した.筋・肝GLYは先行研究同様持続時間依存的に減少し,運動直後の糖質摂取により24時間後に超回復した.一方,脳GLYは運動中盤まで変化せず,低血糖が起こる120分でのみ運動に関与するとされる部位(皮質,海馬,視床下部,小脳,延髄)で約50%減少し,運動直後の糖質摂取なしでも6時間後に約20%超回復した.さらに、4週間の中強度運動トレーニングにより,筋同様、脳でも海馬と皮質でGLY貯蔵量の増加がみられた.これら結果は,脳GLYが長時間運動による疲労時に分解・利用されること,並びにトレーニングを積むことで筋同様に適応することを示唆する.運動トレーニングによる持久性や認知機能の向上にはGLYを含めた脳のエネルギー代謝の適応が関与しているのかもしれない.
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