研究概要 |
近年、ポリフェノールが酵母や線虫の寿命を延長するだけでなく、哺乳類の老化に伴う代謝変化を遅延させるとの報告が相次いでいる。本研究課題では天然由来(食品、生薬)ポリフェノールによる脳神経細胞の抗老化作用について、in vivo、in vitroの実験を行なった。ヒト培養神経系細胞であるSH-SY5Y細胞に血清除去を行い、細胞内insulinシグナルを低下させ、老化に関わる転写因子、FOXOの活性化(FOXOのリン酸化と核内移行)を確認後、血清を添加することでinsulin/IGF-(PI3K)Akt経路を再び活性化させる系を確立した。この系を用い、curcuminおよびその主要代謝物であるtetrahydrocurcumin(TC)、cathecin類、flavonoid類などのpolyphenol類についてinsulin/IGFシグナルに対する抑制効果(Aktの不活性化)Western blotting法とELISA法を用い半定量的に比較した。本シグナルを抑制することは、寿命延長効果、あるいは老年病発症抑制効果と密接に関連することが示唆されている。 その結果、スクリーニングに用いたポリフェノールの中でTCが最もinsulin/IGFシグナル抑制効果が強く、ショウジョウバエの寿命延長効果、および複眼細胞死抑制効果も合わせ認められた。また、培養細胞ではFOXOの活性化も証明された(Xiang et al., submitted)。FOXOは酸化ストレス等による傷害に対し、p53などを介したDNA修復系やsuperoxide dismutase(SOD)などのラジカル消去系酵素等、神経保護活性をもつタンパク質を増加させることが報告されている。本研究課題で得られた結果は疫学的にポリフェノール摂取が認知症を含む神経変性疾患の発症率を低下させることの科学的裏付けとなると考えられた。
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