研究概要 |
本年度は,新規培地における培養法の確立を優先課題とした.昨年度ほぼ完成させた合成培地を用い,培養条件を検討した.同一温度で培養すると従来法の大腸菌を餌にした培養方法より合成培地による培養は成長に遅れが見られたが,培養温度を上昇させ,成長速度を早めることで解消できた.この結果は,合成培地では代謝速度の低下が起こっている事を示すものである.培養可能な培地作製が行えたことから,実際に微量金属の評価を行った.被検物質としては,亜鉛,鉄,銅を用いた.これら3種すべての微量金属を欠いた合成培地を調製し,線虫の培養を行ったところ,線虫の成長は著しく抑制され,幼虫初期からほとんど成長することができなかった.一方,それぞれの金属の影響を調査したところ,銅の欠損培地での培養で成長の遅れが大きく,線虫は成虫まで成長できず,繁殖力が失った.鉄の欠損では,成長の遅れが観察されたが,成虫および産卵が確認された.また,金属濃度の影響についても検討した.3種金属の添加量を増加,減少させたところ,いずれの場合も成長は急激に抑制された.高濃度の金属イオンは毒性を示すことが予想されるが,濃度の低下でも成長に影響が出ることから,本研究で開発した合成培地を用いることで微量金属の線虫に対する必要濃度の評価が可能であると考えられる.さらに,本合成培地に寒天を加え,プレート化した培地上でも,線虫は成虫まで成長した.以上の結果より,当初目的とした線虫を培養可能な完全合成培地の作成および培養法の確立をほぼ達成することができた.今後,本研究で開発した合成培地を用い,線虫の成長・産卵・繁殖を指標にすることで微量元素および食品の機能性成分の生物影響を評価可能な新規評価法を確立する予定である.
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