研究概要 |
富士山山頂部はその標高ゆえに日本では特異な寒冷環境にあり,現在でも永久凍土(通年0℃以下にある地盤)がまとまって存在できる本州で唯一の場所であると考えられる.しかし,富士山の永久凍土分布は,これまで地表面付近の地温から非常に粗く見積もられていたに過ぎず,その実態はほとんど不明であった.しかし平成20年度に開始した我々の集中的な調査により平成21年度までに,山頂火口周辺の緩斜面において,積雪が吹き払われる地点(風衝地)では夏季の降雨浸透が,積雪が吹きだまる地点(風背地)では積雪による冬季の寒気遮断がそれぞれ地温を高く保っており,永久凍土の発達を阻害していることが明らかにできた.その結果を受けて,山頂部において永久凍土が発達しうるのは,風衝地でなおかっ透水性の悪い(降雨が浸透しにくい)溶結凝灰岩層であると考え,平成22年度にはそのような場所に本研究計画の目標・目的であった深さ約10mの地温観測孔を設置することに成功した.それにより富士山では初となる永久凍土本体の地温モニタリングを開始することができたと見込んでいる.実際に地温より永久凍土が直接観測できたと確定されるのは,2年間以上0℃以下であった記録が取れた時点であるが,掘削時の地温が深部で-3℃前後とかなり低温だったことを考えると,永久凍土の存在はほぼ確実視できる.今後,観測を継続することによって気象要素の変動に対する永久凍土の応答についての正確な情報が得られ,温暖化によって富士山の永久凍土分布が短期間に急激に縮小したという最近マスメディアを賑わせた見解の是非も検証されるであろう.また各要素間の関係を定量化し,より現実的な永久凍土分布を見積もるなど研究を発展させる予定である.
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