研究概要 |
本研究の目的は,少数の核酸やアミノ酸からなるナノ構造体の価電子状態(結合エネルギーや空間電子分布)を高感度で計測・解析するための新しい手法を開拓することである.本提案の眼目は,試料を含む液体を直径数μmの超極細パルスビームにすることで,従来,試料の熱分解や電子分光装置の測定環境の制約から困難であったナノ構造体(気相および液相中)の直接観測を目指す. 平成21年度,既存の電子分光装置の整備を行なった.この装置には,UPS用のHe I光源,MAES用のHe^*原子源,電子エネルギー分析器が設置されている.蒸気圧の高い液体試料を扱うため,イオン化室の後方に廃棄用真空槽を取り付けることが必要であり、その設計・制作を行なった.電子エネルギー分析器での圧力上昇を抑えるため,ターボ分子ポンプによる差動排気系を新たに導入した.また,予備的な実験として,気相分子の電子状態測定を行い,イオン化室の形状やサイズを試行錯誤の末,完成させた.低運動エネルギー領域で散乱電子によるバックグラウンドが強く,イオン化室壁面にグラファイトをコーティングしたり,電子の取り込み角を制限するなどの工夫を行なった.さらに,マイクロビーム源の設計を行った. 平成22年度には,DNAの構成分子であるチミンを取り上げ,気相およびグラファイト上の吸着相の電子状態を解析した(JPC,C115,511(2010)).また,これに関連する系をいくつか取り上げ,論文としてまとめた.装置開発に時間が割かれてしまったため,液体ビームによる論文はまだ出ていないが,早急に成果を発表する予定である.
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