本研究はMEMS技術による使い捨て診断チップが医療診断分野へ本格的に普及し大量に利用される際に大きな問題となる医療廃棄物としての課題を解決し、かつ低コストの特長も備えた「紙」を基材とした診断チップの新しい製造・デバイス技術-医療診断向けPaper MEMS技術の創出に関するものである。Paper MEMS診断チップを実現するためには(1)定量性・液状試薬適用性、(2)前処理等も含めた全自動化という課題を克服する必要がある。本研究期間においては課題(2)前処理等も含めた全自動化のために、紙の吸水性を利用した送液方法などを試行し簡易かつ上記製造工程で実装可能な流体アクチュエータ技術を開発することを目的とした。まず紙の吸水性を利用してマイクロ流路内の液体を吸引する方法を試みたが紙組成のばらつきから流量安定性に欠けることが判明したため、マイクロインプリントにより多数に分岐したマイクロ流路網を設け、その毛細管力にて吸引する方法を提案した。また多様な物性の試薬や試料においても同等の吸引速度を得るために、吸引専用の駆動液に分節空気を介して試薬・試料を吸引する方法を提案した。そのため吸水性ポリマーを練り込んだ機能性紙材及びその製法を新たに開発し、ポリマーの膨張により一定時間後に導入口が自動で閉まる構造を開発した(世界初、特許出願済)。平成21年度に開発したモデルベースによる流動解析手法と実験検討により流路寸法と毛細管力による吸引流量の関係を評価(300μm幅のマイクロ流路→流速~10mm/s、14流路で10μL/s以上)し、それを基に分岐流路を備えたアクチュエータ評価用チップを設計・試作(50μm幅のマイクロ流路×32分岐)した後、実際に試作・評価したところ、駆動液にて多種の物性の液を安定して吸引可能であることを確認した。なお本研究成果を受けて次のステップとして、H23年度には、インクジェットプリンタを改良し自動での試薬・試料のシーケンス駆動を行う方式の開発、また紙チップ上に光計測セル、電気化学センサの構成技術について研究を継続中である。
|