前年度に引き続き、現行の「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の下で、非上場株式評価を収益還元方式・DCF方式、純資産方式、比準方式によって算定する場合の留意事項を確認し、各方式間の差異を事例を用いて比較検討した。この研究成果の一部を、平成22年12月4日九州経済学会第60回大会において、論題「事業承継と財務価値」として報告した。そこでは平成21年2月に公表された「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン」(中小企業庁)に基づく評価方式の問題点を指摘し、その改善のあり方を提案した。とくに評価式の分子におけるFCFの推定上の問題や分母のWACCを算出する際の注意点を述べ、実務面での簡便性を損なわない形での理論的修正が必要であることを主張した。また、報告内容を雑誌論文として公表する予定である。以上の研究を踏まえて、当初の研究目的の一つであった現行の国税庁の類似業種比準方式に対する修正のあり方も追究した。その中では、評価式の分子の配当、利益、純資産額のうち、とくに利益の取り方に注意すべきである。そして、理想的にはコスト・アプローチやマーケット・アプローチに依拠せずに、インカム・アプローチで評価できる方向を模索すべきであることを指摘した。本研究を通じて、取引相場のない株式および出資の評価に関する問題点の整理が行われ、今後の改善の方向性が示されることで、中小企業の事業承継の円滑化に寄与できるものと考えられる。また、中小企業のM&A等の際の企業価値評価をより理論的に説明できるものと考えられる。
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