研究概要 |
円偏光レーザーを用いた不斉光源によるらせん高分子の絶対不斉合成に挑戦する。集光した円偏光レーザーが放つ旋回光放射圧によりらせん高分子を発生・トラップさせ、微結晶成長反応とレーザーアニールによる円偏光発光高分子の創成に挑戦する。ファントフォッフによれば、二重井戸構造にある左右らせん構造間の自由エネルギー差はない。しかしながら小さな障壁(2-3kcal/mol)を持つ場合トンネル過程により左右らせん構造が時間とともに揺動する。円偏光フォトンの持つ運動量によりらせん構造の左右性を制御し、微少な会合体の形成に伴いホモキラル結晶成長が予想する。本研究は、フォトンの持つ運動量とコヒーレンス性によって左右らせん高分子の創成という世界初の実験である。フントのパラドックスである左右らせんの量子力学的揺動現象を世界に先駆けて観測できる。 初年度は、ポリフルオレンビチオフェン(F8T2)やポリフルオレン(F8)を試料として用い、レーザー非照射下、直径数μm程度の高分子粒子育成のための貧溶媒/良溶媒/らせん誘起リモネンの体積比の最適化を行った(New J.Chem.34,637-647(2010),Polym.Chem.4,460-469(2010))。 今年度は、ポリフルオレンビニレン(PFV)、フルオレンアゾベンゼンコポリマ(F8AZO)を含めてインコヒーレント円偏光照射下(水銀輝線波長帯)および1064nm/532nm円偏光レーザー照射下、貧溶媒/良溶媒の組合わせのみで光学活性高分子の発生実験を試みた。円偏光レーザー照射下ではいずれの試料の凝集体も熱分解し、成功にいたらなかった。しかしながら、インコヒーレントな水銀輝線による円偏光の弱励起下、F8AZOとイソプロパノール(リモネンなし)の混合溶媒系において、アゾ基のシス-トランス異性化に伴って、光学活性F8AZO粒子の発生が円二色分光法で確認できた。円偏光レーザートラッピングには成功しなかったが、円偏光照射と光異性化高分子の凝集制御により、光学活性の発生(楕円率で20-50mdeg程度)を確認でき、初期の挑戦的目標の一部を達成できた。円偏光励起状態でのフントのパラドックス実験とみなすことができ、今後さらに、非古典的手法によるらせん高分子の創成法として検討を続けていきたい。
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