研究概要 |
従来,レーダの反射を利用して,地層の境界面の位置や形状を把握するのが地中レーダ探査の主な目的である。さらに地下探査精度を向上させるためには,このような幾何情報のみでなく,地下物質の物性に関した媒質定数(誘電率,導電率,透磁率など)を推定し,物質を同定できることが望まれる。しかしながら,地下の物性分布や地層境界の形状に関する不均質は特に大きく,従来の一つの偏波を用いた反射型の地中レーダでは地下の物性までは把握できない。 そこで本研究では,地下構造の可視化精度の向上を目的とし,前年度に引き続いて,レーダの反射と透過の両方を計測でき,さらに合成開口レーダシステムのように偏波も考慮できるという機器の開発を行った。これを管渠側面に形成される地下水面の下の空洞を捕捉するという問題に適用した。本機器では送信アンテナと受信アンテナを分離し,地表から送信したレーダを地下で受信できる。これから透過型地中レーダによれば,反射型に比べてレーダの伝播距離が約半分になることに利点がある。これによりレーダの受信強度が増加し,探査可能な距離範囲が約2倍になり,地下構造の解明に貢献できる。 開発機器の有用性を検証するために,大型水槽モデルを作製し,これに砂を満たすとともに塩ビ管とヒューム管の2種類の管渠を埋設し,その上部に空洞設けた。その後,注水することで,これらの管渠が地下水面以下,すなわち帯水層内に存在するという状態を模擬した。基礎実験の結果,減衰が大きい帯水層内でも送信信号を検出でき,空洞の存在が把握できることがわかった。また,測定を妨げる要因として考えられる鉄筋を含むヒューム管においても,その上部の空洞が検出できた。さらに,TE波とTM波の反射率の相違を利用すれば各層の誘電率が妥当に求められることも明らかになった。ゆえに,本開発機器は汎用的であり,透過型地中レーダの有用性が実証できた。
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