研究概要 |
緑化に多用され、広域分布する樹木について系統地理学的研究を速やかに遂行できる体制の確立を目的として、本年度は公園などに多く植栽される花木の一つであるシダレザクラとその母種であるエドヒガンを中心にサクラ属について調査した。関東以北の東日本で天然記念物に指定されている大径木331個体の生葉からDNAを抽出し、葉緑体DNAのrpl14-rpl16遺伝子間領域およびrpS16イントロンの塩基配列を決定した。 これらの個体は塩基置換と挿入/欠失によって7つの遺伝子型(YD,PA,PA13,PA14,JM13,JM14,JM15)と5つの亜型に分類でき、PA13とPA14は今回新規に発見された。エドヒガンには6、シダレザクラには4つの遺伝子型があり、シダレザクラの起源が単一個体ではないことが明らかになった。また、エドヒガンにはヤマザクラ、カスミザクラ、オオシマザクラに多く見られる遺伝子型(JM14)のものもあり、種間の遺伝子浸透が起きている可能性も示唆された。シダレザクラにもJM14が見つかったが、これに関しては人為的な交雑も考えられる。 遺伝子型の多くは分布域全体に散在したが、YD、PA13、PA14の3遺伝子型はそれぞれ群馬県から栃木県南部、福島県中通り、福島県中通りと岩手県南部に局在していた。また、群馬県、福島県中通り、岩手県南部では複数の遺伝子型が混在するホットスポットを形成していた。植栽を行う際にはこの分布を撹乱することがないように留意すべきであることを提言する。
|