研究概要 |
iPS細胞の臨床応用を視野に入れた場合、iPS細胞樹立の全過程から可能な限り動物由来細胞・成分を排除し、未知の病原性因子に対するリスクをなくすとともに長期間安定した培養を行うことが求められる。我々は、マウスのES細胞を浮遊状態に置くことで、動物由来のタンパク質成分を培地から劇的に低減することに成功し,この成果を基にヒトES細胞およびヒトiPS細胞の浮遊培養条件の確立を目指した。昨年度確立した浮遊条件下でヒトES細胞・iPS細胞は60日以上増殖し,60日後もALP陽性であり,接着培養にスイッチしてもES細胞特有の形態を保持し,一定の分化能力を示した。その培養条件はマウスES細胞とは異なり血清代替物(KSR)が必須であった。KSRは若干の動物由来成分を含有するが,感染リスクの低減に有効な工業製品である。昨年に引き続いてより組成の明らかなKSRの代替物あるいはより増殖率の高い培養系を開発するため,オリエンタル酵母株式会社で開発されたラミニン(Recombinant Human Laminin-5)の効果を中心に調べた。様々な条件を試行した結果,IMDM/F12 1ml/l penicyrin&streptomycin,15%KSR,2×10^<-3>L-Glutamine,1×NEAA,10^<-4>M 2-ME,0.5μg/ml rLaminin-5,1%ITS,100ng/ml bFGFの組成で歯髄細胞から誘導した日本人由来ヒトiPS細胞株21日間で20倍以上浮遊状態で増殖させることができた。ただ,KSRは依然として必須であり,現時点ではマウスに匹敵する低タンパクの培養条件(インシュリン,トランスフェリン,組み換え型増殖因子(LIF)以外のタンパク質を含まない)の発見には至っていない。
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