研究概要 |
多能性幹細胞は体を構成する3胚葉性の細胞に分化する能力を有するために,細胞の脱落・変性によって引き起こされる様々なタイプの疾患への利用が期待されている。ES細胞やips細胞が知られているが,これらは人工的に樹立される細胞であり,腫瘍性増殖力を持つことなどが問題となっている。一方,体性幹細胞は生体に存在する自然の幹細胞であり腫瘍性増殖は示さない。ただ分化能の範囲は限定され,幹細胞の属する組織を構成する細胞には分化するが,胚葉を超えた分化は原則的にはないと考えられて来た。今回我々が成人ヒトの間葉系組織で見つけたMultilineage-differentiating Stress Enduring(Muse)cellは体性幹細胞に属しながら一細胞から3胚葉に分化する多能性を持つ,という点で特異である。Muse細胞は成人ヒト間葉系組織である皮膚,骨髄,脂肪組織などに存在し,多能性を示しながら、重要なことに腫瘍性を示さない。間葉系マーカー(CD105)と多能性マーカー(SSEA-3)のダブル陽性細胞として生体組織からも直接分離可能である。さらに劇症肝炎、筋変性、神経損傷・変性疾患モデルに移植すると損傷組織に生着・分化し、組織修復に寄与する(PNAS,2010)。 これまで間葉系幹細胞は同じ中胚葉系の骨・軟骨・脂肪の他に,神経細胞や肝細胞に分化するという報告がなされて来た。また肝硬変,心筋梗塞などの患者に自己の骨髄間葉系幹細胞を移植することにより組織修復が一定程度もたらされる事が報告され,すでに海外を含めて臨床応用されている。しかし間葉系幹細胞は均質な細胞でなく,ヘテロな細胞群から構成されているために,幅広い分化転換や胚葉を超えた組織修復をもたらす細胞の本体が不明のままであった。Muse細胞はこれまで間葉系幹細胞で見られて来た現象を説明する。この細胞の利用により有効性の高い細胞治療が期待される。
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