研究概要 |
本研究は,従来の筋芽細胞を用いたシート移植研究の成果を踏まえ,治療効果が期待される因子(エラスチン,SVVYGLR,ペプチド)を筋芽細胞に遺伝子導入し,細胞シートを高機能化することにより長期的な治療効果を高め,重症心不全に対する有効な治療法を開発することを目的としている。今年度は,ウイルスベクターを用いて遺伝子導入することで作成したエラスチンまたはSVVYGLRペプチドを分泌する筋芽細胞で細胞シートを作り,ラット心筋梗塞モデルの梗塞部位にそれぞれ移植し,心エコーを用いて,経時的に左心室機能評価を行った。またシート移植後8週目に心臓を摘出し,特殊染色,免疫組織化学染色を用いて,筋芽細胞から分泌された各因子の虚血心筋組織に与える影響を評価した。心機能評価を行ったところ,エラスチンまたはSVVYGLRペプチドを分泌する筋芽細胞シート移植群では従来の筋芽細胞シート移植と比較し,駆出率,左室内径短縮率および左室収縮末期容積の有意な改善が認められ,エラスチン分泌性筋芽細胞シート移植群では左室拡張末期容積の有意な改善がみられた。組織学的評価においては,エラスチンまたはSVVYGLRペプチドを分泌する筋芽細胞シート移植群では,梗塞壁の菲薄化,左心室腔の拡張が抑制されていた。また,梗塞境界部での線維化や心筋細胞の肥大化の抑制も認められた。エラスチカワンギーソン染色の染色像から,エラスチンを分泌する筋芽細胞シート移植群では,梗塞部から梗塞境界部の心外膜側の広い領域にかけてエラスチン線維が分布していた。またSVVYGLRペプチドを分泌する筋芽細胞シート移植群では,梗塞境界部で毛細血管密度が従来の筋芽細胞シート移植群よりも有意に増加していた。従来の筋芽細胞シート移植では移植後2週目から著しく治療効果が低下したのに対して,エラスチンまたはSVVYGLRペプチドを分泌する筋芽細胞シート移植は,持続的に心機能を改善し,左室リモデリングを抑制できる治療法であるといえる。
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