本研究は、コモンズ理論を応用した医療問題の解決に向けたモデル提示のための基礎研究と位置づけ、生命倫理の視点を取り入れた実践的な医療社会学研究を行うことを目的とした。医療を社会的共通資本と見做し、自律した組織が管理運営を行いながら社会との対話を維持するモデルを具体化する方法を探索することに重点を置いた。研究計画のとおり、平成21年度はフェーズIとして伝統的コモンズの歴史・理論を整理、フェーズIIとして環境等で応用されているグローバルコモンズの検討等を行った。平成22年度は、フェーズIIIとしてコモンズの考え方を医療に応用できるか事例を用いた研究を行い、ブェーズIVでまとめの作業をした。当該年度に得られた成果は次のとおりである。医療に係る社会的共通資本の事例として、がん診療連携拠点病院制度に着目した。がん対策基本法に基づきがん対策の政策が全国規模で展開され、がん診療連携拠点病院は各都道府県および各二次医療圏に整備された。設備に関する達成率は予定を上回りハード面は充実した。しかし、調査により専門的知識と技量を有する医療専門職の確保に苦慮する側面、少額かつ硬直的な財政支援しかなくて研修やキャンサーボードやがん登録などに苦慮している側面が明らかになった。だが、内部の問題を抱えつつも地域のがん患者のアクセスを保障し、効率的な医療資源の配分をかなえるべく地域連携クリティカルパスの作成を模索するなど、限られた資源で最大限の効果を発揮できるように各医療機関が努力していることが判った。がん診療連携拠点病院制度(事例)しかみていないが、十分に地域に根ざした社会的共通資本としての医療機能を備えておりコモンズを形成し機能していると考えられる。しかし、人材も含め医療資源が疲弊・枯渇しないための工夫が必要である。各機関の裁量に任せる柔軟な医療政策の後押しが重要である。
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