研究概要 |
本研究では、最近蓄積されてきた色素細胞およびヒト悪性黒色腫形成の分子機構の知識を駆使して、in vitroでのiPSおよび間葉系幹細胞からの色素細胞(色素幹細胞)および悪性黒色腫細胞作成を目指した。最初にiPS細胞より色素細胞が誘導できるかを検証することにし、材料となるヒトiPS細胞を独自に樹立することにした。ヒト皮膚細胞よりiPS化に必要なリプログラム4因子(Sox2,Oct3/4,KLF4,MYC)およびMYCを除く3因子を用いて、iPS細胞株をそれぞれ樹立し、それらiPS細胞株における未分化マーカー(Nanog,SSEA4,TRA-1-60,TRA-1-81等)の発現を遺伝子発現解析や免疫組織化学的手法により検証するとともに、Oct3/4プロモーターの脱メチル化の状態をバイサルファイトシークエンス法により検証した。さらに、in vitroにおいて各iPS細胞株を分化させて、三胚葉系の細胞にそれぞれ分化することや免疫不全マウスにおけるテラトーマ形成能を確認した。これらの樹立したiPS細胞株を色素細胞に誘導するために、胚葉体を形成させたのち、Wnt3,SCF,ET3といった色素細胞分化誘導剤を含む分化誘導培地中で継体培養を行った。その結果、分化誘導後約2月で、色素顆粒を含む色素細胞への分化が確認できた。これらの細胞は、SILV,TYRP,TYR,S100といった代表的な色素細胞マーカーを発現していた。さらに、分化誘導された色素細胞の遺伝子発現プロファイルがヒト初代培養色素細胞と非常に高いことが、DNAマイクロアレイ解析により明らかになった。また、これらの色素細胞の分化誘導過程において、色素細胞の起源細胞である神経堤細胞や色素幹細胞が出現することも、それぞれのマーカー発現解析により明らかとなった。これらに加えて、色素幹細胞をレンチウィルスシステムを用いて濃縮することにも新たに成功した。さらに、神経堤細胞を高効率で選択的に誘導する系の確立にも新たに成功した。これらの技術を用いて、悪性黒色腫瘍幹細胞を人工的に作製する基盤を確立した。
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