研究概要 |
われわれは、過冷却による臓器保存法の有用性をラット肺体外循環モデルで確認した(Okamoto et al. J Heart Lung Transplant 2008 1150-7)。臨床肺移植の4℃と比べて過冷却保存の移植肺への影響を検討した結果、肺動脈圧、酸素化能、肺重量変化、換気量、シャント率などのすべての生理学的パラメーターにおいて、有意に過冷却保存が肺の機能温存において良好であった。本論文の中で、過冷却保存の有効性のメカニズムとして、エネルギー状態(ATP)が温存されることと、病理学検討によって、肺動脈の内皮細胞の傷害が軽減されることを示したが、更なるメカニズムの検討を以下の点について、Pittsburgh大学と共同で以下の研究を行い、現在、論文投稿準備中である。Pro-inflammatory cytokines(iNOS,COX-2,IL-6,TNF-alpha)の発現をRT-PCR(GAPDHに対する発現比)にて評価し、コントロール群と比較し、過冷却群で軽減していることを明らかとした。また、Western blottingの手法を用いて、t-ERK、p-ERK、t-38、p-38、t-jnk、p-jnkの発現が、移植肺において、コントロール群と過冷却群でほぼ差がないことを示した。マクロファージのマーカーであるED1の免疫染色により、過冷却群ではコントロール群と比べて、ED1陽性細胞数が軽減し、過冷却保存が虚血再潅流傷害を抑制していることを明らかとした。 また、今後、過冷却保存の有効性の検討のために大動物実験で用いる予定のブタ肺を用いた体外循環評価システムの当教室での確立に関して論文発表を行った(Okamoto et al. Transplant Proc, in press)。以上のラット肺を用いた基礎的な検討は、今後、ブタ肺での過冷却保存の有用性を検討する際にも、虚血再潅流傷害に関する有用な評価項目として選択できる可能性が大きく、過冷却保存の有用性を示す上でも非常に重要なマーカーとなりうると考えられる。
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