研究概要 |
本研究では,抜去歯の表面に作用させた35%の過酸化水素をハロゲンランプ照射により活性化し,エナメル質の傾斜的なミネラル配分をコントロールすることが可能であるかを検討した。さらに処理したエナメル質の電気化学的特性を検討するため,抜去歯を人工唾液に浸漬し,石灰化度の変化をX線マイクロCTで経時的に評価した.過酸化水素とハロゲンランプ照射により処理したエナメル質では,中間層のミネラルが深部と表層に分極し,エナメル質の傾斜的なミネラル分布が大きく変化した.エナメル質の密度は,表面からエナメル象牙境に向かってポーラスであり,過酸化水素濃度は,比較的密度の低いエナメル深部の層で相対的に上昇する.深部に貯留した過酸化水素はハロゲンランプ照射によりエネルギーが上昇し,天然歯に見られる傾斜的なミネラル分布が変化すると考えられる.処理後のエナメル質は未処理のものに比べて,人工唾液に浸漬した際の再石灰可能が著しく向上する.人工唾液に浸漬した処理後の試料では,エナメル深部の選択的ミネラル密度の上昇から,全体の密度を上昇させることが可能であった.1週間人工唾液に浸漬した処理後の試料では,エナメル表面の高密度の層が特に増加しており,脱灰液中での耐酸性の向上していた.初期の脱灰病変は齲窩を形成していないため,エナメル質は連続性を有しており,理論上は可逆的変化を達成しうると考えられている.初期脱灰病変においても,脱灰の進行した病変深部に過酸化水素は浸透しやすい.過酸化水素とハロゲンランプ照射によるエナメル質の石灰化能促進は,ミネラル濃度が深部で低下している初期脱灰病変の再生にも応用できると考えられる.本研究から,過酸化水素を用いた処理はエナメル質のミネラル分布をコントロールすることが可能であり,エナメル質再生に応用できることが示唆された.
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