研究概要 |
自然免疫系においてファミリーを形成するToll-like receptor (TLR)が病原体の構成成分を特異的に認識し、免疫応答の引き金を引くことが明らかになっている。12種のTLRの各メンバーがそれぞれ異なる病原体構成成分を認識し、遺伝子発現を誘導する。TLRを介したシグナル伝達経路では、TIRドメインを有するアダプター群(MyD88, TRIF, TIRAP, TRAM)が重要な役割を担っており、TLRごとに異なる遺伝子発現が誘導される。TLRを介した自然免疫系の過剰な活性化は、慢性炎症性腸疾患などの発症につながることが明らかになっているが、神経損傷をはじめとする非炎症時におけるTLRの役割は内因性のリガンドを含め、未だ明らかになっていない。今回の申請では神経因性疼痛モデルの脊髄におけるTLRの活性化とグリア細胞自身の形態変化あるいはグリア細胞における遺伝子発現の変化、さらには神経因性疼痛との関連を解明することを目的としていた。 上記目的を解明するために、特にTLR2,3,4を中心に検索を進めた。まず、SDラットを用いて神経因性疼痛モデルを作成しその疼痛行動を確認した。そして、リン酸化TLR3に対する抗体を用いた免疫組織化学法を用いて、神経障害後の脊髄におけるリン酸化TLR3の動態を検索した。その結果、グリア細胞様の細胞において増加する免疫反応が観察され、現在その特異性をチェックしている所である。また、TLR2,3,4に対するprobeを作成し、Northern blotsやin situハイブリダイゼーション法による解析の準備が整ってきた状況である。また、発現が確認された後はアンチセンスオリゴを用いたノックダウン実験で、疼痛行動や標的遺伝子の発現変化を検索する予定である。 上記実験を順調に進めていたが、研究代表者の個人的事情により大学を退職することになり、本研究計画を遂行することが不可能となった。そのため、極めて残念であるが研究中止の手続きを進めさせていただき、本年前半のみの経過を報告いたしました。
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