研究概要 |
カルデラ形成を伴う火山噴火の規模は、従来の噴火の数千倍から数万倍と桁違いに大きく、甚大な被害が懸念される。アメリカのイエローストーンでは、GPS観測から巨大マグマ溜まりの急激な膨張が報告されており、世界の注目を集めている。しかし、現在、生きている人類はカルデラ形成噴火を経験していないため、どの程度のマグマ溜まり膨張率が危険なのかについてはほとんど知り得ていない。そこで本研究では、過去に生じた大規模噴火の噴出物に含まれる斜長石結晶に記録された同位体組成変化から、噴火前のマグマ溜まり膨張率を明らかにすることを試みた。 上記の目的を達成するため、マグマ溜まりへのマグマ注入、母岩の溶融と同化、結晶作用と沈積等の開放系プロセスを組み込んだ、結晶の同位体組成進化の数理モデルを構築した(AGU Fall Meeting 2009で講演,関連論文:Nishimura 2009)。このモデルにより、結晶の同位体組成の累帯構造からマグマ溜まり膨張率を読み取ることが可能となった。このモデルを天然の大規模火山噴出物に適用するため、マイクロドリルとTIMSを用いた局所同位体分析を行った。予備研究として、小豆島花崗岩類にみられるマグマ混合岩中の斜長石の局所Sr同位体分析を行った(2009年火山学会で講演)。現在、姶良火砕噴出物中の斜長石を対象に、Sr同位体組成の累帯構造を調べ、マグマ溜まり膨張率の見積もりを行っている。 本課題研究は、代表者の転職に伴う資格喪失により、僅か4ヶ月の実施期間となったが、今後も継続していく予定である。活火山地域のマグマ溜まり膨張率は、現在、GPSを用いて精力的に実測されており、本研究の手法により過去に噴火したマグマ溜まりの膨張率を解明していくことで、噴火予知を大きく前進させると期待される。
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