研究概要 |
本研究は,建築家アルド・ファン・アイクによる思想の構造的解明を主題として,その言説と作品についての考察を行った。まず前者については,本研究代表者がこれまで取り組んできた研究を継承しつつ,新たな課題として建築・都市における空間と時間との関わり合いについてのかれの論考の分析を行った。抽象的な空間と時間が具体的な「場所」と「場合」として捉え直されることを通して,人間によって経験され生きられる建築的事象が「場合のための場所」という,時間的契機を含んだ空間の問題であることが明らかとなった。こうした時間的契機を通して,建築・都市とは,当座の視覚を超えた多様な意味を伴って経験されうることが示された。このことは,いわば空間についての視覚的理解のみに終始した近代主義建築を,人間の心的経験に彩られたより豊かな次元へと開く試みであったといえよう。一方,作品についての考察としては,かれ自身の作品をはじめ,晩年のファン・アイクが関心を向けたギリシア建築家D.ピキオニスの作品の視察を通して, 1997~80年代すなわちファン・アイクの後期思索における関心の所在について示唆を得た。とりわけ,前期思索で展開された,建築の経験主体による実存的な「場所」「場合」のさらなる始原としての他者性の問題が,「開け」や「光」を鍵語として主題化されてゆく経緯を作品のうちに読み取ることができた。
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