研究概要 |
申請者らは過去の研究において,雌ラット発情前期尿が雄ラット鋤鼻感覚細胞の細胞内カルシウムイオン濃度([Ca^<2+>]_i)の持続的な上昇という特有の反応を引き起こすことを見出した。本研究では,この持続的[Ca^<2+>]_i上昇を生理活性の指標とし,雄ラット鋤鼻感覚細胞のカルシウムイメージング法をバイオアッセイ系として,雌ラット発情前期尿特異的に存在する生理活性物質(フェロモン)を同定することを目的としている。尿中成分の特性を知るために,限外濾過膜を通した尿や熱変性させた尿を用いてバイオアッセイをおこなうと,鋤鼻感覚細胞に持続的[Ca^<2+>]_i上昇を引き起こすことから,尿中生理活性物質は低分子で熱変性しにくい特性を持つことが示された。また,HPLCの疎水性カラムに通して吸着させた雌ラット尿中成分を,アセトニトリルにて濃度勾配溶出させたところ,低濃度(0-15%)のアセトニトリルに多くのピークが出現した。このHPLCフラクションを"蛍光顕微鏡ベースのバイオアッセイ系"にて試験すると,発情前期の雌ラット尿から分取されたフラクションが特異的な細胞内カルシウム濃度の上昇を引き起こした。これまで利用してきた個々の鋤鼻感覚細胞の反応特性を詳細に解析できる"高速リアルタイム共焦点レーザー顕微鏡によるバイオアッセイ系"に加えて,本研究で確立した,厚みのある鋤鼻感覚上皮全体,あるいは鋤鼻感覚細胞の集団の反応を測定できる"蛍光顕微鏡ベースのバイオアッセイ系"を生理活性試験に導入することにより,細胞の反応を目的に応じて効率的に捉えることが可能になった。尿中成分の分離・精製とこれら2種類のバイオアッセイにより,雌ラットの発情前期尿特異的なフェロモンの同定の可能性が高まると期待できる。
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