研究概要 |
乳癌原因遺伝子BRCA2は二重鎖切断DNAの相同組換え修復に関与するとともに,中心体にも局在する。BRCA2をノックダウンすると中心体複製が異常になることから,中心体複製制御にも役割を果たしている可能性が示唆されていた。我々は培養細胞の中心体画分からBRCA2を免疫沈降し,その共免疫沈降物を質量分析した。その結果BRCA2に新規に結合する分子として,nucleophosmin (NPM)とRho-associated coiled-coil containing protein kinase 2(ROCK2)を得ることができた。この両分子は これまでに正確な中心体複製に役割を果たすことが知られていることから,BRCA2とこれら両分子との結合が中心体複製に重要な働きを担っている可能性が考えられた。我々はBRCA2がNPMと結合する分子内領域を,BRCA2の部分配列とNPMを培養細胞に共発現することによって検定した。これによりBRCA2の3,418アミノ酸のうち,639-1,000アミノ酸領域がNPMとの結合領域であることを解明した。この小領域を培養細胞に強発現すると,内在性のBRCA2とNPMの結合を阻害することができ,この時中心体数が異常に増加したり多核になったりする細胞が多く見られた。このことから,BRCA2とNPMの結合は中心体の正確な複製と中心体数の制御に重要な役割を果たしていると考えられた。中心体数の異常による染色体の異常分配や多核の形成は癌化過程に特徴的に見られることから,乳癌発癌にBRCA2とNPMの結合不能が関与している可能性がある。今後BRCA2とこれら分子との結合が癌治療の標的になり得る可能性について検討していきたい。
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