研究概要 |
非アルコール性脂肪性肝炎(以下NASH)では,体内に鉄の蓄積を認め,細胞内で過剰となった鉄がフリー鉄となって活性酸素の産生を亢進させることが知られている.この鉄蓄積の詳細な機序を解明すべく,NASH患者での鉄代謝プロフィールおよび鉄代謝因子の発現について検討を行った.その結果,NASH患者では健常人と比べて,血清鉄,血清フェリチン,トランスフェリン飽和度は有意に高値であった.またNASH患者では生検肝組織で有意に鉄の沈着を認めていた.さらに経口鉄を負荷すると,NASH患者では体内鉄過剰状態にもかかわらず,健常人と比べ意に鉄吸収が亢進していた.一方,鉄代謝調節因子としては肝hepcidin,十二指腸粘膜ではDMT1, D cytb, Ferroportin-1, Hephaestinなどがあるが,これらのmRNA発現を半定量法で検した.その結果肝hecidinはNASH患者において有意に発現の亢進を認めており,この亢進はトランスフェリン飽和度と正の相関を認めていた.一方十二指腸粘膜での発現ではDMT1, D cytb, Hephaestinは有意に発現の亢進を認め,Ferroportin-1は健常人とほぼ同等の発現であった.以上の結果からNASH患者では十二指腸粘膜での鉄代謝調節因子の発現亢進が,体内鉄過剰に関与していることが考えられた.次にNASH患者における体内鉄過剰を治療すべく,除鉄療法の有用性を検討した.除鉄療法は定期的な瀉血と鉄量5-7mg/日の低鉄食を併用した.8のNASH患者に除療法を1年間施行した結果,全例でALTの有意な低下を認め,さらには肝炎症の程度や線維化も改善傾向を認めた.
|