研究概要 |
胎仔期にホルモン様物質に曝露し,その影響が時間を経て第2次性徴以降に現れる晩発効果は,細胞分裂を経ても表現型を維持する機構,すなわち,遺伝子発現記憶を司るエピジェネティクスと密接に関わっているものと推察される.本研究は,これまでの研究を更に発展させ,内分泌撹乱作用を有する環境因子ビスフェノールA(BPA)と遺伝子発現記憶との関連性について,分子生物学的に解析を行った.具体的には,Mouse Hypothalamic Cell Line N-44を用いて,0.02-200μMのBPAを3時間曝露し,DNAメチルトランスフェラーゼDnmt1, Dnmt3a, Dnmt3b,およびメチル化DNA結合蛋白質MeCP2(e1), MeCP2(e2)の遺伝子発現変化を検討した.更に,性腺刺激ホルモン(GnRH)の遺伝子発現量を検討し,BPAが視床下部-下垂体-性腺軸に及ぼす影響の解析を行った.その結果,BPA 20μMの曝露でMeCP2(e1)の遺伝子発現が有意に増加し,更にBPA 200μMの曝露ではMeCP2(e2), Dnmt3bの有意な発現増加が観察された.一方,GnRHの遺伝子発現は,0.02-20μMのBPA曝露では有意差がみられなかったが,200μMの曝露において顕著な発現低下がみられた.以上より,マウス胎仔視床下部細胞において,BPAは約20-200μMの濃度でDNAのメチル化状態を変化させる可能性が示された.とくにDmmt3bは,ゲノムのCpG配列に新たなメチル化模様を書き込むことで知られており,メチル化DNA結合蛋白質MeCP2の増加とともに,メチル化により制御を受ける遺伝子の発現変化をもたらすことが推察された.また,マウス胎仔視床下部細胞のGnRH遺伝子発現は,20-200μM BPA曝露において,毒性を発現する閾値が存在するものと考えられた.
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