研究概要 |
パニック障害の治療は認知行動療法と薬物療法があるが,臨床的には併用することが多い。近年,併用療法の効果を示す研究が散見されるようになったものの,どのような薬物を選択すると,より高い治療効果が得られるかを検討している研究はまだ少ない。本研究では,薬物の違いがパニック症状改善の程度やその速度にどのような影響を及ぼすかについて検討した。 同意の得られた昭和大学病院附属東病院精神神経科に通院中の広場恐怖を伴うパニック障害患者を対象として男女混合のスモールグループ(男女各2-4名)による集団認知行動療法を実施した。Panic disorder severity scale for Japan(PDSS-J)を主要評価項目として,恐怖症状はMobility Inventory(MI), Agoraphobic Cognitions Questionnaire(ACQ), Body Sensations Questionnaire(BSQ),不安全般はHamilton Rating Scale for Anxiety(HRSA),社会機能評価はGlobal Assessment of Functioning Scale,うつ症状はHamilton Rating Scale for Depression,全般的な精神症状はClinical Global Impression(CGI)-Severity & Improvementなども他の評価尺度についても評価を施行した。薬物療法は治療者が必要と判断した向精神薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(以下SSRI)やベンゾジアゼピン系抗不安薬などを服用し,なお, 1種類のSSRI継続使用もしくは/または1-2種類のベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬の継続また頓服使用とし,実臨床に近い薬物治療とした。本研究は昭和大学医学部医の倫理委員会の承認を得ている。 参加者41名の評価尺度全てが,併用療法施行後に有意な改善を認めた。ベンゾジアゼピン系抗不安薬の定期使用より,頓服使用の方が全ての評価尺度で有意な改善を認めた。これは認知行動療法が前頭葉に作用するため,使用量が少ない方がその作用を阻害しにくいのではないかと推察した。一方,抗うつ薬,抗精神病薬,そして気分安定薬の使用有無は有意差を認めなかった。またSSRI使用群は未使用群より速く破局的認知を改善したが,ベンゾジアゼピン系抗不安薬の使用方法,抗精神病薬や気分安定薬の使用有無などで改善の速さに有意差を認めなかった。 結論的には,最終的に破局的認知を有意に改善した。SSRIは最終的にパニック症状全般を改善し,早期に破局的認知の再構成を促す可能性があるため,併用療法に使用する薬物として好ましい。一方,ベンゾジアゼピン系抗不安薬の服用方法の違いは破局的認知の改善の速さに影響を及ぼすことはなかったが,定期服用より頓服使用の方が最終的にパニック症状全般をより改善するため,併用療法のベンゾジアゼピン系抗不安薬使用方法としては頓服使用が望ましい。
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