研究概要 |
運動トレーニングは,競技パフォーマンスの向上や生活習慣病の予防・改善,高齢者の運動機能を高めることで生活の質を改善する手法などとして広く奨励,実施されている.運動中には血圧や心拍数,自律神経活動が大きく変化する.運動中の自律神経活動および血圧調節メカニズムを調べることは,運動の安全性や健康の維持・増進および運動能力向上の効果を考慮するうえで極めて重要である.重量挙げのような静的な運動中や,ランニングなどの動的運動を高強度で行うと,交感神経活動と血圧が大きく上昇する.このような交感神経活動および血圧の顕著な増加には,活動する筋肉での代謝産物の蓄積により賦活される筋代謝受容器反射が深く関与している.運動中に過度の血圧上昇などが起これば脳血管障害や心臓突然死が起こることもあることから,筋代謝受容器反射の機能を解明することは非常に重要な研究課題である.本年度では,筋代謝受容器刺激時の心拍数応答の個人差を調べ,また,その個人差が何に由来するのかを検討した. 51名の健康な成人男女を被験者として,安静時および筋代謝受容器刺激時(掌握運動後の前腕阻血時)において,心拍数,血圧,心臓自律神経活動(心拍変動解析)および動脈圧受容器反射による心拍数調節の感受性(血圧と心拍数の伝達関数から求めた:BRS)を測定した.安静時と筋代謝受容器刺激時の心拍数の平均値に差はなかったが,心拍数反応の個人差は大きく,およそ半数の被験者では心拍数は低下し,残りの半数では増加した.さらに,各変数間の相関分析の結果,筋代謝受容器刺激時における心拍数の応答は,心臓副交感神経活動およびBRSと関係するが,血圧および心臓交感神経活動とは関係しないことが明らかとなった.このような筋代謝受容器反射機能の個人差は,運動時における自律神経活動や循環応答の個人差を生じる一因であると考えられる.
|