本研究では、18世紀後半のフランスにおける「英雄・ヒロイズム(=英雄性、英雄志向性)」の概念の内実が、17世紀的な「孤高の偉人」から18世紀的な「共同体の一員」へと移行・発展・熟成していく過程を、ルソーの英雄論とそれをとりまく思想的状況の分析を通して明らかにすることを目指した。技術=人為の「進歩」を手放しで賛美する風潮が強い中、ルソーは人為をあくまでも自然の意図の忠実な実現のための手段ととらえる。そして、自然が作ったままの「凡庸な」存在にとどまるために人為を注ぎ込むことに主眼を置くという発想の転換を行うことによって、一部のエリートだけではなく、すべての市民に政治的主体としてのあり方が開かれることとなる。本研究では、こうしたルソーの政治思想が当時のフランスにおいて浸透し、新たな政治的主体としての「能動的市民」の誕生を準備する一因となった背景について調査した。そして、当時の思想的潮流の中にルソーの思想を位置づけつつ、18世紀後半のフランスにおいて「英雄・ヒロイズム」概念が転換していくプロセスを明らかにすることに、本研究は一定の成果をあげることが出来た。
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