研究概要 |
1目的 統合失調症ではγ帯域活動の異常があることが報告されている。これまでの研究では知覚や注意に関連したγ帯域活動について調べられてきたが、患者の日常生活により関連した社会的認知についても検討が必要である。視線は他者との交流に重要な役割を果たし、統合失調症では視線認知に異常があることが報告されているが、その神経生理学的異常についてはまだ明らかにされていない。そこで本研究では統合失調症の視線認知におけるγ帯域活動を調べた。 2方法 これまでに慢性期統合失調症患者14名(男11名、女3名)と健常者23名(男18名、女5名)が本研究に参加した。本研究は東京大学医学部倫理委員会の承認を得ており、被験者には研究の内容を説明して文書にて同意を得た。統合失調症患者は陽性・陰性症状評価尺度を用いて症状を評価された。統合失調症患者と健常者との間で性、年齢、利き手の有意差はなかった,被験者には視線をそらした顔と視線をまっすぐに向けた顔とを提示し、視線に応じてボタンを押すように教示した。課題中に脳波を測定し、時間周波数解析を行い、γ帯域活動を計測した。統計解析には分散分析を用いた。γ帯域活動と臨床症状との関連を見るためにスピアマンの相関係数を求めた。 3結果 健常者では右側頭部のγ帯域活動で視線の効果を認めた(F=9.59,p=0.005)。統合失調症では視線の効果を認めなかった(F=0.149,p=0.71)。γ帯域活動は陽性症状と正の相関(rho=0.639,p=0.014)、解体症状と負の相関(rho=-0.557,p=0.039)を示した。 4考察 本研究の結果から、統合失調症では視線認知に関連したγ帯域活動の異常があることが示された。γ帯域活動はGABA系抑制性インターニューロンが関与するとの報告もあり、視線認知異常の背景にある生物学的異常の解明に役立つかもしれない。
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