研究概要 |
アルツハイマー病の病態仮説として広く認められている「アミロイドカスケード」仮説において,βアミロイド(Aβ)産生亢進がタウ異常リン酸化を引き起こすメカニズムについてはいまだ不明な点が多い.近年,国内外の疫学研究により2型糖尿病の病態として重要なインスリン抵抗性がアルツハイマー病の発病リスクを高めるという知見が明らかにされたことから,研究代表者はAβ産生亢進がインスリンシグナル障害を介しタウ異常リン酸化を引き起こす可能性を考え,本研究課題を立案した.Aβがタウ異常リン酸化を引き起こす際のインスリンシグナルの役割を解析するため,研究代表者は新しいアッセイ系を確立した.ドナー細胞にAPPを過剰発現する細胞を,レシピエント細胞にタウを過剰発現する細胞を用いてこれらを共培養することにより,細胞外Aβがレシピエント細胞のタウのリン酸化に及ぼす影響を検討可能とした.この共培養システムにおいてAβ産生亢進が生じる培養細胞(APPswe)をドナー細胞した場合,野生型APPを発現する培養細胞(APP WT)をドナー細胞とした場合に比べ,レシピエント細胞のタウのリン酸化が上昇することをリン酸化特異抗体により確認した.さらに,このリン酸化タウの蓄積がインスリンシグナル障害に起因することを示すため,レシピエント細胞のインスリンシグナル関連蛋白(インスリン受容体,Akt,GSK 3β)の発現レベルおよびそのリン酸化の程度をウエスタンブロット法により確認した.これによりAPP sweをドナー細胞とした場合,インスリンシグナル関連蛋白は定常状態で既にリン酸化していることを確認した.研究代表者は,定常状態でのインスリンシグナル関連蛋白のリン酸化が増加した場合,インスリン抵抗性をきたすことを確認しており,Aβ産生亢進がインスリンシグナル障害を介しタウ異常リン酸化を引き起こす可能性が考えられた.
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