研究概要 |
本研究の最終目標は,糖尿病患者に頻発する歯周病悪化メカニズムを解明して,糖尿病-歯周病の相互作用の病態理論を構築することである。本研究においては,歯周組織の構築細胞の一つである歯肉線維芽細胞の動態に着目し,近年,炎症性サイトカインとしての作用が注目されているHigh mobility group box-1 (HMGB1)を標的分子として,そのレセプターの1つであるReceptor for Advanced Glycation Endoproducts (RAGE)との相互作用を明らかにした後,それら一連の細胞反応が及ぼす"高血糖"の影響を検討している。本年度は,歯肉線維芽細胞における1) 炎症性サイトカインIL-6および歯周病原生細菌由来のLPSがHMGB1の産生性に及ぼす影響の検討,2) HMGB1誘導性の細胞内シグナル伝達系に及ぼす影響の検討を行った。 まず,歯肉線維芽細胞に対して炎症性サイトカインIL-6 (1-50ng/ml)や歯周病原生細菌Porphyromonas gingivalisおよびEscherichia coli由来のLPS(1-1000ng/ml)を時間(0-48時間)および生理的濃度依存的に作用させたが,HMGB1の産生は誘導されなかった。この結果は,申請者が当初予測していた歯肉線維芽細胞自身によるHAfCB1のオートクライン作用がないことを示唆するものと考える。次に,HMGB1のパラクライン作用の検討を行うため,リコンビナンHMGB1を用いて歯肉線維芽細胞を刺激したところ,細胞内シグナル伝達系の一つであるMAPK系タンパク質(ERK1/2)のリン酸化が濃度および時間依存的に有意に誘導されることがわかった。 以上の結果から,炎症性細胞等によって産生されたHMGB1が歯肉線維芽細胞に対してパラクライン的に作用し,細胞活性,細胞死,そして炎症性サイトカイン産生性等に影響を及ぼす可能性が示唆された。糖尿病患者における炎症悪化のメカニズムにHMGB1が関与している可能性は非常に高く,引き続き本研究を継続していく必要があると考える。
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