研究概要 |
近年、急激に増加している我が国の大腸や乳房などのがんは、食生活の欧米化、特に、脂肪摂取の増加、脂肪酸摂取の不均衡と関連があると考えられているが、十分に検討されていない。本研究代表者らは、これまでに、1)食物摂取頻度調査票の開発、脂肪酸摂取の生体指標の確立に従事し、2)世界に先駆け、生体試料中の脂肪酸レベルを微量、簡易、迅速、安価、高精度に多くの検体を定量的に測定する新規方法を独自に発明した。そして、3)中長期の青身魚の摂取の生体指標として、赤血球膜中のDHAレベルが高い者は、低い者と比較して、大腸、乳房、胃のがんの危険度が低いことを示した。 本年度、愛知県がんセンターを受診した膵臓がん罹患者71症例と、症例群の性、年齢、受診季節を1:3でマッチングした213人を非がん患者から無作為抽出した対照群に対し、赤血球膜中の脂肪酸レベルと膵臓がん危険度との関連を検討した。膵臓がん危険度は、赤血球膜中の脂肪酸構成割合を3分位に分け、交絡要因で補正したオッズ比(OR)とその95%信頼区間(CI)で評価した。その結果、膵臓がん危険度は魚摂取と関連がなかったが、赤血球膜中のDHAレベルが高い者で高かった(OR=2.18, 95%CI, 1.12-4.25; ptrend<0.01)。魚摂取量と赤血球膜中のDHAを含む脂肪酸レベルの相関行列は、症例群と対照群で異なっていた。膵臓がんには適切なスクリーニング方法がないことから、症例群の食生活は本研究の参加時点で既に変化していただけでなく、膵臓機能の低下が進み脂質代謝機能の低下が引き起こされていたのではないかと考えた。 現在、地域の性別年齢構成別人口分布に基づいた住民モデルに対する赤血球膜中の各種の脂肪酸レベルの正常値とその範囲を設定するため、地域住民を対象にした食生活習慣調査(採血を含む)などを進めている。
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