本研究は、古代王朝および国家の発生についての日中間、特に歴史学界と教育現場における認識について、現在どのような差異が生じているのか、またその認識の差異は何ゆえに生じるのかについての考察を課題として取り組まれた。まず基礎作業として、これまでに日中の歴史学界が積み重ねてきた古代王朝および国家の発生にかんする各種の研究成果について、文献およびインターネット上に公開された諸論考を考古学的分野から文献史学的分野に渡って幅広く収集し、実証レベルで確認された歴史的事実の共有状況を確認し、一方でその歴史的事実に基づいて構築される歴史認識が大きく異なっている現状を確認することが出来た。このような日中両国間の歴史認識の差異を別の視点から確認するために、中国本土とは異なった歴史観を有すると考えられる台北の故宮博物院および歴史博物館での歴史展示についての実地調査を行い、中国・台湾間でも大きく歴史認識が異なっている現実を確認することが出来た。このような研究過程により、本研究では中国を「外国」として認識する立場にある日本の中国に対する歴史認識の根源を問い直す作業が不可避のものであることが明らかになり、このため日本の近代中国史学の基礎を築いた内藤湖南の中国史認識について、関連書文献の精査と検討をあわせて行った。既にその成果の一部は「近代日本から中国への視座~内藤湖南の時代区分論をてがかりに」として口頭報告し、またこの報告に基づく論考が、平成22年7月出版予定の論集に収録される予定である。このように、現在の日本の中国史観を規定している歴史観の本質に迫ることが出来たことが本研究の成果である。
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