本研究の目的は、高等学校における性に関する教育を効果的なものにするため、性感染症を身近な問題として感じるためにどのような内容が効果的かを探ることであった。方法として、講義とワークショップを交えた2時間程度の性教育プログラムを2学年5クラスに実施した後、質問紙調査を実施した。 性感染症を「とても身近に感じる」と答えたのは男子20.0%、女子41.8%だったのに対し、「身近に感じない」と答えたのは男子32.9%、女子24.0%であり、女子に比べ男子は性感染症に関心や危機感を感じていなかった。性感染症を身近な問題として感じられたかどうかをプログラムごとに検討したところ、「感染者数などの統計資料から性感染症の現状を知る」では男女差が見られなかったが、「ビデオ教材で実際にクラミジア感染症に感染した人の体験談を聞く」、「感染が広がる様子を擬似的に体験するゲームに参加する」の効果は、女子が男子に比べて有意に高かった。つまり、性別によって受け止め方が異なり、教育効果も異なることが示唆された。 学校で性に関する指導を行う際、クラスまたは学年単位で行われることが多いが、この場合教育効果に男女差が生じる可能性がある。五十嵐(2002)は、男子は周りの人との比較によって性交を行おうとする傾向が強いこと、また斎藤ら(2006)は男子高校生の購読頻度が高い雑誌の性に関する記述が、女性誌に比べ医学的信憑性が低く興味本位な描写が多いという結果を報告している。このような現状を踏まえた男女別のプログラムを実施するか、またはプログラムに男子に対する動機付けを高める内容を組み入れるなどの工夫が必要であることが示唆された。今後は前述の工夫を施した予防プログラムの実施と評価が課題である。
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