目的:2005年から2008年、北海道の日本海沿岸では秋季に暖流系漂着物(温帯~熱帯海域や沿岸に生息する生物等)が多く見られた。その代表であるアオイガイの石狩湾における大量漂着の大きな要因は高い海面水温と北西季節風だが、この関係は本州~九州の日本海側でも成り立つのか。その解明を本研究の目的とした。 手法:石狩湾中央部の砂浜を定期的に踏査し、特徴的な漂着物の数量と年間の変動を記録した。同時に気象・海況観測を実施した。アオイガイの漂着状況を北海道と本州~九州とで比較するため、下北(津軽海峡)、新潟、福岡の3地域で、漂着が予想される12月~1月、砂浜の踏査と現地の水族館関係者や漂着物研究者からの聞き取り調査を実施した。 成果:石狩湾のアオイガイ漂着はすでに2008年には減少の傾向を見せていたが、2009年は一層減少した。2000年代後半に見られた大量漂着現象は3~4年間で終息したことが確認された。一方、12月初旬の下北では長さ約5kmの砂浜の2日間の踏査で、100個体近い大量のアオイガイ漂着を確認した。それに対して12月中旬の新潟と1月中旬の福岡では同様の調査で数個体しか見られなかった。過去5年間の調査結果から、石狩湾でアオイガイ漂着がもっとも増加するのは海面水温が15~16度の時だとわかったが、今回調査を実施した地域・時期の水温がこの範囲内だったのは下北だけで、新潟と福岡ではこの範囲から外れていた。このことから、アオイガイ漂着の水温条件は地域を問わないことが明らかになった。また、下北、新潟、福岡での過去のアオイガイ大量漂着は1960年代と1980年代に多かったが、2000年代後半は3地域では漂着は目立って多くはない。北海道で見られた大量漂着は津軽海峡以北に限定された現象であったことが明らかになった。
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