研究目的:本申請では、移植、栽培が困難な野生ランであるムヨウラン属植物を対象とし、(1)日本国内に自生するムヨウラン属植物全12種の菌根菌の多様性を明らかにすることでムヨウラン属植物が、どのような菌根菌と共生し、生育しているのかを明らかにし、(2)比較的個体数の多いムヨウランについて、菌根菌の分離培養および外生菌根形成試験を行い、樹木、菌根菌の共生系が確立させ、(3)そこへムヨウランの種子を播種し、種子発芽から開花に至るまで栽培することで、ムヨウラン属植物の増殖技術確立のための基礎的知見の集積を行うことを目的とするものである。 研究方法:新潟県~沖縄県に至る広範囲な地域よりムヨウラン属植物の根の一部を125株分採集した。実験室に持ち帰り、菌根菌の菌糸塊を抽出し、そこからDNAを抽出し、ITS1・ITS4のプライマーを用いrDNAのITS領域を増幅した後、シーケンスを行うことでDNAの塩基配列を決定し、菌根共生する菌種を特定した。菌根菌の分離培養には、外生菌根性菌類の培養に使用するMMN培地を使用し、根から菌糸塊を抽出し培養した。 研究成果:ムヨウラン属植物はベニタケ科のチチタケ属およびベニタケ属菌に特異性を持ち生育することが明らかとなった。この菌への特異性は種によって大きく異なり、エンシュウムヨウランについては採集した4地点すべての個体よりチョウジチチタケに極めて近縁な菌種が高頻度で検出された、それに対しクロムヨウラン、ムヨウラン、ホクリクムヨウランなどの種ではベニタケ属、チチタケ属の様々な菌種が分離され、菌根菌への強い特異性はみられなかった。また、南方に分布するシラヒゲムヨウラン、アワムヨウランなどはAtheliaceaeの菌種も菌根菌となることも明らかとなった。全体の結果から、南方起源のムヨウラン属が温帯地域に適応するに従い、チチタケ属植物の特定の種と共生関係が構築されるようになったことが併せて想定された。菌根菌の分離培養は、チチタケ属菌の菌根菌が10系統分離された。しかし、ベニタケ属菌やAtheloaceaeなどの菌根菌は分離培養することができなかった。その理由として、これらの菌種は樹木に外生菌根を形成することが知られていることから、特殊な栄養要求性を有しているのがその原因と考えられる。これらの菌株を外生菌根性樹種であるコナラの実生苗の根に定着させ外生菌根を形成させる実験を行ったが、現在のところ菌根形成は確認されていない。本研究ではサンプリングと実験に多大な時間を要したので菌根定着試験を行う段階にまで至らなかった。
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