研究目的: 病気や怪我等で体の組織が欠損した場合、組織の修復を支援する材料が必要不可欠である。これまでに、報告者は、キトサン-γグリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)複合体は良好な細胞接着性と増殖性を持つことを明らかにした。一方、近年Bioglass^<【○!R】>から溶出したSi(IV)が骨芽細胞の増殖および分化を促進させるという報告がある。そこで本研究では、前述のキトサン-GPTMS複合体にテトラエトキシシラン(TEOS)を導入し、Si(IV)の徐放量を調節し、徐放されたSi(IV)がヒト骨芽細胞様細胞(MG63)にどのような影響を与えるかを調べた。 研究方法: キトサン-酢酸水溶液に所定量のGPTMS及びTEOSを添加した。溶液を24ウェルプレートに流し込み、室温で1日静置後、60℃の恒温槽中で2日間乾燥させ、キトサン-GPTMS-TEOS膜を作製した。GPTMS及びTEOSのみを添加した膜も同様に作製した。得られた膜を炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、蒸留水で洗浄して残存酢酸を取り除いた。複合体膜上でMG63細胞を培養し、細胞の代謝活性をalamarBlue^<【○!R】> assay、骨分化活性をALP活性で評価した。また溶出したSi(IV)徐放量を高周波誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)で調べた。 研究成果: Si(IV)徐放量は、キトサン-GPTMS-TEOS膜とキトサン-TEOS膜では添加量に伴い増加した。細胞の代謝活性と徐放量に相関関係はなく、キトサン-TEOS膜上では他の試料と比較して代謝活性は低い値を示した。ALP活性はTEOSを導入した試料上で、Si(IV)徐放量がキトサン-GPTMS系よりも多い場合に高い値を示した。これらより、キトサン-GPTMS-TEOS膜から徐放されたSi(IV)は、骨芽細胞の代謝活性ではなく、骨芽細胞の分化を促進させると考えられる。
|