研究目的:グリチルリチン(GL)は甘草の主成分であり、腎臓や肝臓におけるコルチゾール(F)の代謝酵素を阻害し、偽アルドステロン症を誘発する。これまで、代謝酵素の活性変動はGLを投与した場合の尿中F上昇やF代謝物の測定によって評価されてきたが、尿中F測定では副腎皮質からのF分泌が影響するため代謝酵素阻害活性のみを評価できず、またF代謝物は一般の臨床検査では測定されないという問題があった。17-OHCSはFを含む副腎皮質由来のステロイドであり、副腎皮質からのF分泌を反映する。副腎からのF分泌を17-OHCSで補正した尿中F/17-OHCS比は、GLによるF代謝阻害の程度を示すと考えられ、偽アルドステロン症の評価へ利用できると考えられる。そこで、健康成人を対象にGL含有量の多い芍薬甘草湯の投与試験を行い、尿中F/17-OHCS比の変動について調査し、さらにGL含有漢方薬服用患者において尿中F/17-OHCS比の有用性を検討した。 研究方法:同意を得た6名の健常者を対象として投与試験を行った。1日目に24時間蓄尿を行い、2日目より芍薬甘草湯を7.5g/日で2日間服用した。3日目に再び24時間蓄尿を行い、芍薬甘草湯投与前後の尿中カリウム(K)、F及び17-OHCSを測定した。併せて、芍薬甘草湯を連用している患者の尿中F/17-OHCSを調査した。 研究成果:芍薬甘草湯投与試験において、投与前に比べて投与後には尿中Kが有意に上昇しており、Kの排泄が亢進していることを確認した。有薬甘草湯投与により尿中Fは有意に上昇したが、尿中17-OHCSに変動は認められなかった。尿中F/17-OHCS比は芍薬甘草湯投与により有意に上昇した。よって、芍薬甘草湯投与による尿中Fの上昇は、副腎からのF分泌上昇ではなく、腎臓や肝臓におけるF代謝阻害によると考えられた。また、芍薬甘草湯を連用している患者の尿中F/17-OHCS比は13.7と、健康成人での値より高く、芍薬甘草湯の長期連用がより強力にF代謝を阻害し、偽アルドステロン症のリスクを高めると考えられた。 以上の結果より、尿中F/17-OHCS比はGLによるF代謝阻害の評価に利用できると考えられた。
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