研究概要 |
我々が行ってきた着色乳糖を用いた検討では、散剤の計量調剤により環境や調剤者への飛散が認められており、抗悪性腫瘍剤の散剤調剤時には調剤者が曝露する危険性が高いことが示唆された。本研究では、抗悪性腫瘍薬の計量調剤による散剤の飛散を定量的に評価するために、実際に臨床で使用されているメトトレキサートの錠剤粉砕物を用いて計量調剤を行い、調剤者の手袋および調剤環境へのメトトレキサートの飛散状況を調査した。手袋および調剤環境からのメトトレキサートの回収は0.03M水酸化ナトリウムと日本薬局方ガーゼを用いて行った。回収液中のメトトレキサートの測定には、Fluorescence Polarization Immunoassay(FPIA)法(TDxFLX analyzer,アボット)を用いた。 まず、調剤環境および手袋からのメトトレキサートの回収率について検討を行った結果、手袋および調剤台に予め付着(1および5μg)させたメトトレキサートはそれぞれ95%以上(n=3,C.V.<5%)回収することが可能であった。次に、臨床における処方をもとに、メトトレキサートの錠剤(2.5mg)を用いた計量調剤(6錠を全粉砕後、乳糖を加えて全量0.8g)を行い飛散状況の検討を行った。その結果、調剤者が着用していた手袋からは15.4μgのメトトレキサートが検出され、調剤環境には調剤者から見て天秤の右側の調剤台に左側に比べて6.5倍(26ng/cm^2対4ng/cm^2)の飛散が認められた。調剤者から見て右側に飛散が多く認められたのは、調剤者が右利きであったため左手にメトトレキサートが入った容器を持ち、右手のスパーテルで計量の操作を行ったことが原因と考えられた。また、秤量に用いた天秤の表面からも14.5μgのメトトレキサートが検出された。 以上のことから、抗悪性腫瘍薬の散剤を計量することによって調剤者や調剤環境に飛散していることが明らかとなり、飛散量は秤量の方法や調剤者の操作により異なることが示唆されたことから、抗悪性腫瘍薬の散剤の計量調剤時には抗悪性腫瘍薬の注射剤を混合調製する時と同様に十分な曝露防止対策が必要であると考えられた。
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