【目的】欧米諸国において毒素高度産生株のClostridium difficileの拡がりと、toxin A非産生・toxin Bのみ産生株の増加が報告され、重症な経過から死亡の転帰をとる事例も報告されている。本研究課題では、九州・沖縄地域の医療機関で分離されたC.difficileの毒素産生能と遺伝子型を指標にした疫学調査を目的とした。 【方法】九州・沖縄地域の6つの医療施設で抗菌薬あるいは抗がん薬が投与され、下痢症または急性腸炎を来した患者糞便検体より常法によりC.difficileを分離・同定した。分離された菌株について、PCR法でのtoxin Aおよびtoxin B毒素産生能の判定と、repetitive sequence-based PCR(rs-RCR)法を用いた遺伝子型の解析を行った。 【結果】患者糞便検体475件より113株のC.difficileを分離した。内111株の毒素産生能は、67株(60.4%)がtoxin A(+)・toxin B(+)、26株(23.4%)がtoxin Aおよびtoxin B、いずれも(-)、残る18株(16.2%)がtoxin A(-)・toxin B(+)であった。rs-PCR法を用いた遺伝子型の解析では、現在までのところ18群に区分され、1つの群に複数施設の分離株が集積する傾向が観察されている。また、毒素高度産生NAP1株と94%の高い相同性を認めた菌株も観察された。 【考察】rs-PCR法での遺伝子型解析の結果からは、九州・沖縄地域の個々の医療施設内で特定のクローン由来のC.difficileが集積している状況はなく、むしろ地理的に離れた施設間においても高い相同性を示すC. difficileの分布が観察されている。今後、毒素高度産生株を含めた慎重な監視が必要と考える。
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