研究概要 |
【研究目的】:歯周病原細菌は、脱落上皮細胞、白血球、歯肉溝滲出液等をタンパク分解することで得られたメチオニンやシステインの代謝・合成から、硫化水素(H_2S)、メチルメルカプタン(CH_3SH)、ジメチルサルファイド((CH_3)_2S)といった口臭関連ガスである揮発性硫黄化合物(Volatile Sulfur Compounds、以下VSCs)を産生し、口臭症に関与している。歯周病原細菌の中でPorphyromonas gingivalis(P.g)はメチルメルカプタンの産生能が高いと報告されているが、同じP.gであっても臨床分離株においては、菌株レベルでVSCs産生能に違いがあると予想される。一般的に歯周病原細菌も垂直感染が主と考えられ、P.gingivalisのメチルメルカプタン高産生能株の検出・特性を解明することは口臭治療に多大な影響を与えると考える。本研究はP.gのVSCs産生能に関わる因子を明らかにするため、硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドについて口臭症患者から分離したP.g臨床分離株および標準菌株を用いて、VSCsガス産生能の違いを菌株レベルで検討を行った。 【研究方法】:1.P.g臨床分離株の分離と同定方法 患者の5分間刺激唾液の10^5倍希釈したものをCDCバクテロイデス選択培地に播種し嫌気培養後黒色コロニーから染色体DNAを抽出し、PCR法を用いて16srRNAを増幅して確認した。 2.P.g臨床分離株および標準菌株を用いて、L-メチオニン90分作用時のVSCsガス産生能の違いを菌株レベルで分析した。 【研究成果】:標準菌株間でVSCs産生能を比較すると、硫化水素(H_2S)についてはW83,W50,11が高く、メチルメルカプタン(CH_3SH)についてはS-2,GT-6が高く、ジメチルサルファイド((CH_3)_2S)についてはW50,S-2が高い値を示した。臨床分離株においても3種それぞれのガスが優位に高い値を示す菌株が存在した。 本実験から、P.gはメチルメルカプタンの産生能が高いと言われているが、P.g標準株及び臨床分離株へのL-メチオニン添加によるメチルメルカプタンの産生能は菌株間で違いがあることが明らかとなった。一方で、3種ガスの内、2種において高濃度のガス産生を示す菌株も存在した。これは産生経路に係わる酵素活性の違いなどによるものと考えられる。今後、これらの酵素活性に関して、産生能の高い菌株および低い菌株について遺伝子レベルでの検討が必要と考える。
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