研究概要 |
唇顎口蓋裂患者における構音障害の発現の割合は裂型が重度になるにしたがって多くなり、裂型が軽度であるほど、すなわち、正常な顎形態に近いほど少なくなる。正常な構音の発達は一部の音を除いて3歳でほぼ完成する。また手術の術式や手技などにもよるが裂型が重度であるほど口唇および口蓋閉鎖術後に残存する瘻孔が多く発生し、唇顎口蓋裂患者の正常な構音機能の発育を障害している。そのため口唇および口蓋閉鎖手術前の早期の顎矯正の意義は大きい。ホッツ床は短期間での顎矯正力は十分ではないためレジン床を硬口蓋にピンで留める方法を応用したLatham装置が開発されたが顎に対する侵襲が大きい。そのため当科では顎矯正が必要と考えられた症例では顎に対する侵襲の少ないnasoalveolar modeling plate(NAM)を用いている。NAMは近年開発され(Cuttingら1998、Graysonら1999)レジンの口蓋床と口蓋前提部から顎裂部の外鼻に続くワイヤーを主体としたnasal stentからなり、テープで頬部に固定する。本邦でも使用され始めている(佐藤2005)が、その有効性は十分検討されていない。今回われわれはこれまで用いてきたホッツ床よりNAMに変更することにより、口唇閉鎖手術前までに十分な顎誘導を行うことを可能とした。まだ症例数は少ないもののNAMをより早期、すなわち生後間もないころより使用するほど顎誘導が容易に行えることを確認している。NAMを使用した患児とホッツ床を使用した患児の顎形態を乳歯列の完成し構音訓練を開始する4,5歳時で比較することで瘻孔残存への顎誘導の効果や鼻咽腔閉鎖不全などの構音障害に対する顎誘導の効果を検討することが可能となる。今後さらに症例数を増やして行く予定である。
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