研究概要 |
[研究目的]タンパク質を含む人工唾液中での生体金属材料の腐食挙動を評価する新しい溶出試験を提言することを目的とする.[研究方法]試料は銅の含有量に着目し,3種類の金銀パラジウム合金を供した.表面積が6cm^2の鋳造試料片を#1000耐水研磨紙にて最終研磨した.溶出試験は,人工唾液に試料を浸漬する静的溶出試験と,咀嚼などによる金属の摩耗を考慮して,人工唾液にセラミックスボールを入れ動的に振倒する動的溶出試験をおこなった.振倒は60分毎に5分間おこなった.人工唾液としては,総山式,ハンクスとサリベートを用いた.さらに,ハンクスとサリベートにムチンを添加した人工唾液とムチンを除いた総山式人工唾液を調整した.試料を37℃の人工唾液に7日間浸漬後,誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて溶出した微量元素を定量分析し,溶出試験と金属の溶出におよぼすタンパク質の影響について検討した.[研究成果]静的溶出試験では,ハンクスとサリベートにおける溶出挙動は同じ傾向にあった.しかし,総山式では,これらの溶出挙動とは逆の結果となり,溶出した金属の濃度は人工唾液に関係していた.また,ムチンの有無によるそれらへの影響は,人工唾液にも関係し,金属の溶出を促進するとも遅延するとも一概に言えないことが分かった.ただ,銅の含有量が多い合金は銅の溶出量が多かった.動的溶出試験では,静的溶出試験の場合よりも溶出量が増加した.これは,振倒による機械的摩耗により,試料の新鮮面が露出し,より溶出しやすくなったためと思われる.ただ,静的溶出試験と同様に溶出する金属とその濃度は,ムチンの含有の有無も考慮した人工唾液に関係し,しかもムチンが金属の溶出を促進するかどうかは合金組成にも関係することが分かった.タンパク質を含む人工唾液中での生体金属材料の腐食挙動を評価する新しい溶出試験としては,動的試験が適していると思われる.
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