研究課題/領域番号 |
21H00508
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
横井 孝 実践女子大学, 研究推進機構, 研究員 (60166866)
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研究分担者 |
澤山 茂 実践女子大学, 研究推進機構, 研究員 (00078213)
大和 あすか 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, アソシエイトフェロー (30823752)
佐藤 悟 実践女子大学, 文学部, 教授 (50178729)
上野 英子 実践女子大学, 文学部, 教授 (60205573)
日比谷 孟俊 実践女子大学, 研究推進機構, 研究員 (60347276)
舟見 一哉 実践女子大学, 文学部, 准教授 (80549808)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2021年度: 10,010千円 (直接経費: 7,700千円、間接経費: 2,310千円)
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キーワード | 源氏物語 / 紙質 / 非破壊 / デジタルマイクロスコープ / 蛍光x線分析機 / 打紙 / 蛍光X線分析器 / 蛍光X線 / 和紙 / 河内本 / 藤原為家 |
研究開始時の研究の概要 |
『源氏物語』写本は定家本を最善とし、15 世紀の大島本が基準的な写本となっている。一方、写本を切断した古筆切は、伝藤原為家筆大四半切のように13 世紀の書写とされ、現存写本よりも古態があると評価されながらも、従来の文学研究から取り残されてきた。 本研究では『源氏物語』古筆切の料紙をデジタル・マイクロスコープ、分光光度計、蛍光Ⅹ線分析計によって、紙の組成・填料、紙漉きの簀の目等の分析による古筆切の年代推定を行い、『源氏物語』成立時により近づいたテキストを再建する。 同時に写本成立の歴史的背景を解き明かし、従来のテキスト研究が中心であった国文学研究とは異なる文理融合の新しい研究方法を確立させる。
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研究実績の概要 |
ここにいう「為家本」とは藤原為家を伝称筆者とする『源氏物語』断簡群のもとの写本の形態を仮称するものである。断簡の様相などから一連のもの(ツレ)であることが明らかなものもあるが、判別の明瞭でないものもあり、高精細デジタル顕微鏡・高解像度スキャナ・蛍光X線分析器などのハイテク分析器を通してテキスト再建を目指すのが本研究である。当該年度には、口頭発表として1本行い、論考として4篇を公表する。 口頭発表として、横井孝・澤山茂・日比谷孟俊「高精細デジタル顕微鏡と蛍光X線分析器による伝為家筆本源氏物語の紙質調査」(国際シンポジウム「古筆切研究の未来―文理融合研究の成果 第1回―」国文学研究資料館・実践女子大学文芸資料研究所共催、実践女子大学渋谷キャンパスハイブリッド開催、2022年7月10日)を行った。高精細デジタル顕微鏡では紙の繊維を分析するとともに夾雑物・填料などを析出することによって、おおよその年代の推定ができることを述べた。蛍光X線分析器では古筆切(断簡)の元素組成の割合の近似値によって同定の方法を示した。 さらに論考としては、所収単行本の刊行が遅れているが、近時、下記の4篇の論考が公刊される予定である。 ①横井孝「紫式部集の紙―高精細デジタル顕微鏡による演習」(横井孝・廣田收編『紫式部集の世界』勉誠出版、2023年7月予定)、②横井孝・澤山茂・日比谷孟俊「為家本源氏物語幻の巻の研究―高精細デジタル顕微鏡・高解像度スキャナ・蛍光X線分析器による紙質調査を通して―」(『紙のレンズから見た古典籍』勉誠出版、2023年9月刊行予定)、③日比谷孟俊・澤山茂「国文学・美術とハイテク分析機器―コメ澱粉粒の反射偏光顕微鏡観察による識別を中心に―」(同上)、④横井孝「『源氏物語』本文資料としての古筆切」(田中登・横井孝編『源氏物語 古筆の世界』武蔵野書院、2023年9月予定)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の骨子である非破壊による方法で、写本の構成要素のうちの基盤である「紙」の繊維や元素組成の分析によって、鎌倉時代中期という、より古態の『源氏物語』テキストを再建する方法が可能であることが明らかになりつつある。高精細デジタル顕微鏡により、試料である「紙」の繊維の表情(morphology)の同定作業、高解像度スキャナによって紙の制作工程の「紙漉き」の簀の目の同定分析、蛍光X線分析器によって紙の元素組成の析出調査を行った。特に、高解像度スキャナによる紙の簀の目分析は当初の予定にはなかったものであるが、同分析のソフトの複数導入が容易になったため対比調査が可能になり、信頼度が強化されることになったのである。 また、伝藤原為家筆「源氏物語幻の巻」1巻(実践女子大学図書館蔵)が新たに発見され、これもまた為家本のまるまる一巻分として調査対象に加えることが可能になり、さらに京都において原装の伝藤原為家筆「紅葉賀の巻」一帖分が発見紹介されたこともあり、為家本テキスト再建は、少なくとも部分においては相当に進展したものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
写本の構成要素の最も重大な「紙」の正体を、非破壊によって解明してゆく方法は、初年度からの活動によって、周知しつつある。本研究は、従来の、たとえば炭素14の年代測定法を否定するものではなく、破壊検査を行うことが難しい文化財の調査をより深く追求するものであり、両研究方法が相俟った形で対象をあますなく考究することを理想とするものである。 特に、本研究で中心となっている高精細デジタル顕微鏡・高解像度スキャナ・蛍光X線分析器は、その操作による結果の判断には習熟が必要であり、データの集積は分析評価のために欠かせないものである。調査が可能な実践女子大学の古筆切は『源氏物語』のものだけでも200点を超え、さらに本研究とは別に進められている「源氏物語古筆切集成」(実践女子大学所蔵品ほか協力機関・協力者によって500点近い当該作品の古筆切を掲載できるようになった)を機縁として、資料提供の好意を受けつつある。これらの資料をもとに、今後さらにデータの集積、分析を進めて行く。
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