研究課題/領域番号 |
21H00647
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
稲村 哲也 放送大学, 教養学部, 客員教授 (00203208)
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研究分担者 |
鶴見 英成 放送大学, 教養学部, 准教授 (00529068)
木村 友美 大阪大学, 大学院人間科学研究科, 講師 (00637077)
山本 太郎 長崎大学, 熱帯医学研究所, 教授 (70304970)
苅谷 愛彦 専修大学, 文学部, 教授 (70323433)
鳥塚 あゆち 青山学院大学, 国際政治経済学部, 准教授 (70779818)
山本 紀夫 国立民族学博物館, その他部局等, 名誉教授 (90111088)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
16,900千円 (直接経費: 13,000千円、間接経費: 3,900千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 高所環境 / アンデス文明 / ラクダ科動物 / チャク / レジリエンス / 動物 / 牧畜 / 狩猟 / アンデス / アンデス高地 / 先住民社会 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究ではアンデス高所のレジリエンスのダイナミズムを通時的・統合的に究明する。とりわけ、従来の「狩猟(野生の略取)」と「牧畜(家畜の保護・利用)」の生業区分を脱し、「動物と人の相互作用」を中心に据える。本研究の結節点は、現代に蘇った「チャク」である。チャクとは、インカ皇帝が民衆を指揮して行っていた一種の追い込み猟で、ラクダ科野生動物は毛を刈られたあと生きたまま解放される。良質なビクーニャの毛は、かつて皇族に献上されたが、現在ではヨーロッパに輸出されている。チャクが提起する生態人類学的課題、考古学的課題、総合人類学の通時的課題―新たな『生業』の背景や影響、レジリエンスの復興―等を解明する。
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研究実績の概要 |
本研究は、主としてアンデス高地を自然実験の場とし、環境=動物=人の相互作用に照準を当て、人類史・文明史の観点から「社会レジリエンス」という新領域の開拓を目的とする。本研究の課題群は、通時的課題(ダイナミズム)と現代的課題(プロセス)の二つに大きく分けられる。通時的課題は、動物のドメスティケーション、文明形成への影響、スペイン征服の衝撃などである。「征服の衝撃」は、先住民社会の「伝統」とレジリエンスへの打撃であり、今日もその復興過程にあると捉えられる。現代的課題としては、チャク(野生動物の捕獲と毛の利用)の再生に着目し、その復興のプロセスを解明する。さらに、先住民社会が現代的課題(争い、感染症流行など)にどのように対応しているかを検証し、「社会レジリエンス」の諸相を究明する。 2021年度はCOVID-19感染症流行により現地調査はできなかったが、通時的課題のうち、ドメスティケーションとそのアンデス文明形成への影響について、オンライン等による研究会や文献研究を行った。近年、ペルー北部山岳地域の形成期の遺跡の発掘調査・研究から、 800BC頃(形成期後期)以降の社会的格差と政治的権力の明白な出現が明らかにされてきた。その根拠として、金や銅の貴重な装飾品や、貝や黒曜石など長距離交易による物資などの副葬品、頭蓋変形を伴う特別な墓がある。また、ラクダ科動物の遺存体の安定同位体分析から、同時期に(ペルー南部から最初キャラバンとして導入された)リャマの現地飼養が始まった証拠が示された。政治権力の出現とリャマによる長距離交易の制御との関連、その背景として階段畑の刈り跡でのリャマの飼養と(糞の肥料による)トウモロコシの増産、供犠や祭宴での肉の消費、織物としての利用などに関して、考古学と民族誌データの突合せによって議論を深めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、パンデミックの影響で海外調査を実施することが困難であったが、文献研究を進めると共に、これまでの研究のフィールド・データの再整理・再解釈、比較研究等を国内でできる研究を推進し、大きな成果を得ることができた。 研究代表者は、アンデスのラクダ科動物をめぐる考古学と民族誌を統合した文明形成に関わる研究、モンゴルやヒマラヤとの牧畜文化の比較研究を行った。さらに、多分野の研究者との共同研究を通じ、人類史を「レジリエンス史観」によって統合的に再考する研究を推進し『レジリエンス人類史』(京都大学学術出版会)として纏め、今後の研究展開のベースを構築した。 研究分担者の山本紀夫は、旧大陸の古代文明との比較を通じ、アンデス文明を「高地文明」として位置付ける研究をまとめた。鶴見は、以前ペルー南部のプイカ行政区で採取した黒曜石の原石を、米国の研究者らとともに化学分析し、黒曜石産地及び周辺地域の遺跡からの出土事例を確認し、かつて研究代表者がキャラバンに随行した踏査の記録とあわせ、先スペイン期における交易を論証した。また、ペルー北部における考古学データと古環境の整理を進めた。鳥塚は、ペルーで1960年代から開始されたリャマ・アルパカの品質改良のうち、とくにアルパカ毛の白色化とその後の活動に焦点を当てて研究を進めた。また、1980年代後半からペルー国立農業研究所(INIA)等によって開始された、アルパカの遺伝子保存・有色毛回復・生産者支援などに関するプロジェクトの概要と問題点を整理し、アンデス牧民と家畜との関係について事例分析を行った。苅谷は、国際誌等の文献渉猟を通じて、アンデスにおける自然地理学的研究の近況を整理した。また、現地調査データ(堆積物の年代測定値等)の見なおしや再計算を行い、今後の研究に備えた。山本太郎と木村はアジアにおける高所適応と食、疾病等の研究を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
以下の4つの研究領域を推進すると共に、それらを統合し「環境・動物・人の相互作用」のダイナミズムとそのプロセスに関する諸課題をレジリエンスの観点から究明していく。:A(生態人類学的研究)家畜化起源地の地形と生態、アンデスの4種のラクダ科動物の生態とその変容、4種のラクダ科動物間の交雑の遺伝学関係とその意味、ラクダ科家畜(アルパカとリャマ)の牧畜の形態とその変容、チャクの形態のバリエーションとその背景、農牧複合の形態と変容など。:B(通時的研究)ラクダ科動物のドメスティケーションとその文明形成への影響、とくに権力形成・社会の複雑化への影響、とくに、荷駄家畜であるリャマのキャラバンによる交易とその変容など。:C(身体的生理学的研究)高所環境へのヒトの適応とかく乱、高所環境における腸内細菌叢と感染症、征服による感染症パンデミックとその影響、現代における社会変容の身体生理への影響など。:D(民族誌的研究)アンデス牧畜の特性と変容、チャクの復興の要因・背景、普及の現状とその社会的背景、社会変容、先住民共同体の歴史的変遷、近代化の影響、現代的課題と対応など。 COVID-19感染症流行を見定めながら、文献研究・研究会と共に、フィールドワークとして、国内の博物館等で資料調査、海外で予備的現地調査を試みる。その主目的は、Aは野生動物と家畜の生態、牧畜の形態と変容、チャク普及の現状など、Bは形成期遺跡調査、リャマのキャラバン・ルート踏査、Cは食と身体生理(生活様式の変化と生活習慣病の関連性)など、Dはチャク普及、先住民共同体の変容などである。 また状況を見定めながら、野生動物の利用、牧畜形態とその変容、異種間の交雑とその意味・背景など、「環境・動物・人の相互作用」の特性に関して、ヒマラヤ、モンゴル等との比較研究も実施する。
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