研究課題/領域番号 |
21H00857
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09040:教科教育学および初等中等教育学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐々木 司 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (50235256)
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研究分担者 |
大沼 久美子 女子栄養大学, 栄養学部, 教授 (00581216)
三木 とみ子 女子栄養大学, 栄養学部, 客員教授 (80327957)
北川 裕子 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任助教 (90816159)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,030千円 (直接経費: 13,100千円、間接経費: 3,930千円)
2023年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2022年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2021年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
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キーワード | 高校生 / 定期健康診断 / 精神保健チェックアップ / 早期発見・早期対応 / 中学生 / 思春期 / 精神保健 / 自殺予防 / 早期発見 / 健康診断 / スクリーニング / 精神保健リテラシー / 教員研修用プログラム / 保護者用プログラム / 養護教諭 / 効果検証 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、高校生の精神不調の早期発見・早期対応に向けて、学校の定期健康診断と組み合わせて実施できる精神保健スクリーニングを開発する。10代では精神不調・精神疾患が急増するが、特に高校生は自殺が死因の第1位となる等、その影響が深刻化する年代である。また不調を抱えた生徒は自分では助けを求められないことが多く、大人が直接尋ねる必要がある。学校の健康診断は、現在は身体面のチェックに限られている。本研究ではこれに精神面のスクリーニングを加えて、それに基づくリスク評価と対応を進め、それが精神不調の早期発見・早期対応に効果を及ぼすか、また効果向上のために必要な工夫(教員教育など)は何かの検討を進める。
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研究実績の概要 |
中学生・高校生を対象に精神保健スクリーニングの検討を行った。ある県の公立中学3校、高校2校の中1、高1全員を対象に、学校の保健活動として、うつ・不安に関する質問と希死念慮に関わる質問(生きていても仕方ないと思うことがある?)に回答を求め(一次スクリーニング)、どちらかに「所見」を認めた生徒には、クラス担任が面接を行い、その中で自殺リスク評価を行った(2次面接)。また自殺リスクに関する質問の生徒のうつ・不安への影響をみるため、1次スクリーニングと同じうつ・不安に関する質問を2次面接でも行った。その際、中学、高校それぞれ無作為に学校単位で2群に分け、片方は自殺リスクの質問を行う前に、もう一方では質問を行った後でうつ・不安の質問に回答してもらった。なお昨年度の予備調査を参考に、うつ・不安については5問1セットの質問紙(WHO-5)を用い、2次面接用には教員の発言シナリオを、昨年度に得た意見を参考に作成して用いた。 結果であるが、一次スクリーニングには中学生(中1)500人弱、高校生(高1)700人弱が参加し、うち中学生の28%、高校生の30%で「所見」を認めた。有所見の生徒全員が担任教員による2次面接を受け、うち中学生23人、高校生35人が「死んでしまいたいと思ったり、眠ったまま目が覚めなければいいと思ったことがあるか?」にハイと回答。そのうち中学生2名、高校生4名は「自殺の具体的計画をたてている」または「過去3か月以内に実際に自殺の準備をしたり、あるいは、何か行動をとったことがある」にハイと回答した。高校生4名のうち3名は、自殺リスクについては気づかれていなかった(中学生については現在集計中)。2次面接でのうつ・不安に関する質問では、自殺リスクについて尋ねた後に質問を行った群の方が、尋ねる前に質問を行った群よりもスコアの平均点に良好な傾向を認めたが、有意差には至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
自殺リスクの早期発見を含む精神保健のスクリーニングの形は整えてきたが、多くの教員、生徒に使いやすい形での実施にまで至っていないことが研究課題の1つとして残っている。また、医療機関との連携モデルの検討を含めて、リスク発見後の学校の態勢整備の部分が未達成である。
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今後の研究の推進方策 |
今回の結果から、一般の中高生の中にも深刻な自殺リスクを抱えた生徒がおり、そのリスクは周囲に気づかれていない場合の多いことが示され、そのようなリスクを知るためのスクリーニングの必要性が示唆された。今後の取り組むべき課題としては、次のことが考えられた。 (1)スクリーニングの方法をさらに改善していくこと(多くの教員に使いやすく、生徒に受けやすいもの、定期的に実施できるものに改善していくこと)。 (2)リスクの高い生徒を見つけた際の対応方法を整備していくこと(保護者との連携を含めた学校内の態勢整備に加え、医療機関との連携の整備が求められる)。 また、(3)より早い年齢での予防対応を充実していくことも、今後の検討課題の1つとして考えられる。 なお本研究開始時には、一部の学校教員には精神保健スクリーニング実施そのものへの躊躇も認められた。ただ自殺等のリスクは基本的に、尋ねなければ問題がおきるまで気づけない性質のものであり、今回、教員がリスクに気づけていない複数の生徒が「自殺の具体的計画をたてている」または「過去3か月以内に実際に自殺の準備をしたり、あるいは、何か行動をとったことがある」と回答したこともその点を支持するものと考えられる。また海外では複数の研究で、生徒に尋ねることによるリスク増大には否定的な結果が報告されており、特に不安・うつの強い生徒では、きちんと尋ねることで不安を和らげる可能性も示唆されている。一方わが国ではこれまで、この問題に関する検討がきわめて乏しかったため、本研究では予備的な検討をクラスター無作為化を用いて試み、海外の研究と似た結果が得られた。とはいえ、今回の研究では二次面接を受けた生徒の数が限られていたので、今後よりさらに検討を進めることが望まれる。
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