研究課題/領域番号 |
21H01012
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13020:半導体、光物性および原子物理関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
篠北 啓介 京都大学, エネルギー理工学研究所, 助教 (60806446)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 11,700千円 (直接経費: 9,000千円、間接経費: 2,700千円)
2021年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
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キーワード | 光物性 / ナノ材料 / 半導体物性 |
研究開始時の研究の概要 |
わずか原子数層からなるグラフェン類縁物質である二次元物質やそのヘテロ構造は、従来の半導体ナノ構造とは質的に異なる特異な光学的性質を示すことから、新しい物質科学・物性物理学の研究対象として注目を集めている。本研究課題では、二次元物質を角度をつけて積層した人工ヘテロ構造において発現するモアレ超構造を利活用することで、これまでに実現されていない光配列・高密度な励起子集合体となる新たな量子システムを実現し、光子場を介して形成される励起子間相互作用による超蛍光現象や単一超蛍光現象をはじめとする協力的な新規量子光学現象の発現とその制御を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、モアレ超構造を利用して励起子を精密に自在配列し、その相互作用を高度に制御することで、協力現象を最大限に活用し、超蛍光現象や単一光子超蛍光現象の実現や、さらに単一光子と物質が相互に作用しあって生じる全く新しい巨視的な量子光学現象を探究し、それらを支配する普遍的な物理を明らかにすることを目的としている。モアレ超構造を利用してこれまでに実現されていない高配列・高密度な励起子集合体となる新たな量子システムを構築し、従来の光と物質の相互作用の枠組みを超えた新たな量子光学現象の発現を目指す。本研究を通して、単一光子レベルでの光と物質の相互作用の根源的な理解が深化され、基礎学術において大きなブレークスルーをもたらす可能性を秘めている。 令和4年度は、WSe2/MoSe2原子層ヘテロ構造の発光ダイナミクスからモアレ励起子のスピン一重項や三重項の微細構造やバレー分極状態を明らかにした。さらに、WSe2/MoSe2原子層ヘテロ構造に加えて、超蛍光現象などの協力的量子光学現象を観測するためのプラットフォームとして、振動子強度の大きいMoSe2/WS2やWSe2/WSe2の原子層ヘテロ構造を作製し、層間励起子と層内励起子が混成したモアレ励起子の光学特性の解明を行なった。また、系統的な試料を安定して作製するため、ベイズ最適化の手法を用いた機械学習のアプローチから単層試料作成の最適化を行なった。 今後は、作製したMoSe2/WS2やWSe2/WSe2原子層ヘテロ構造を用いて、超蛍光現象などの協力的量子光学現象の観測を目指す。強度が非線形に増大し放射レートが短くなることや、複数の発光ピークから一つの発光ピークだけの成長を様子を観測し、超蛍光現象を実証する。さらに、積層角度や温度などのパラメータを精密に制御しながら、高配列したモアレ励起子からの協力的量子光学現象の物理メカニズムを明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、令和4年度に行う主要な部分として、協力的量子光学現象の観測のためのモアレ超構造の光学的性質の評価を行なった。WSe2/MoSe2において発光ダイナミクスを観測し、モアレ励起子のスピン一重項や三重項の微細構造やバレー分極状態、ダーク状態などを明らかにした。一方で、研究を進めていく過程で、WSe2/MoSe2原子層ヘテロ構造では空間的に分離した層間励起子からの発光を観測するため振動子強度が小さく、協力的量子光学現象の観測に困難を伴うことが示唆されたため、それと並行して、MoSe2/WS2やWSe2/WSe2の原子層ヘテロ構造の研究も進めた。層間励起子と層内励起子が混成したモアレ励起子の発光特性や反射応答を測定し、WSe2/MoSe2原子層ヘテロ構造に対して振動子強度が強く、超蛍光現象などの協力的量子光学現象を観測するためのプラットフォームとして有望であることを明らかにした。 また、系統的な試料を安定して作製するため、ベイズ最適化の手法を用いた機械学習のアプローチから単層試料作成の最適化を行なった。機械剥離法を用いた手動の作製手順において、無数の実験パラメータから、実験条件の最適化を行い、安定して大量の単層試料の作成が可能になった。また、メカトロニクスを用いた、機械制御による機械剥離法の装置も開発し、系統的な測定が可能になった。 当初の研究計画ではWSe2/MoSe2原子層ヘテロ構造を用いた協力的量子光学現象の観測を目指しており、研究を進める過程で振動子強度などの問題があることがわかったが、研究計画申請にもあった通り、研究計画がうまくいかない時の対応として掲げていたMoSe2/WS2やWSe2/WSe2の原子層ヘテロ構造の研究を並行して進めることで対処した。これらの研究結果の進捗状況は、研究計画申請時の計画通りであり、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、作製したMoSe2/WS2やWSe2/WSe2の原子層ヘテロ構造を用いて、モアレ超構造からの超蛍光などの協力的量子光学現象の観測を試みる。超蛍光現象の観測のための光学系を構築する。面内に光放出される超蛍光現象を観測するため、試料をGaSe上に転写し、面内に放射される超蛍光をGaSe導波路構造で伝播させ、GaSe端で検出を行う。励起した場所と違う位置からの光放射を検出するため発光イメージング測定系を構築する。励起子数の増大に従い、強度が非線形に増大し放射レートが短くなることを実証する。さらに、CMOSカメラの前に透過型回折格子を導入し、GaSe端で検出される光放射のスペクトル情報も抽出することで、モアレ励起子由来の複数の発光ピークから、励起強度を強くするにつれて、複数の発光ピークから一つの発光ピークだけが成長する様子を観測し、超蛍光現象を実証する。また、時間分解測定から超蛍光の特徴となるパルス的な光放出の観測を試みる。 ベイズ最適化した機械剥離法の機械制御を用いて系統的な積層角度の試料を作製し、モアレ励起子間の相互作用や、層間励起子と層内励起子の混成度などのパラメータを精密に調整することで、超蛍光現象などの協力的量子光学現象を制御し、その物理メカニズムを明らかにする。
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