研究課題/領域番号 |
21H01016
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13020:半導体、光物性および原子物理関連
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研究機関 | 大阪公立大学 (2022-2023) 大阪府立大学 (2021) |
研究代表者 |
大畠 悟郎 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (10464653)
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研究分担者 |
溝口 幸司 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (10202342)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,940千円 (直接経費: 13,800千円、間接経費: 4,140千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2021年度: 13,780千円 (直接経費: 10,600千円、間接経費: 3,180千円)
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キーワード | 密度行列 / 量子もつれ / 励起子分子 / 量子コヒーレンス / 非線形分光 / 量子ビート |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,量子力学において本質的に重要な性質である「量子もつれ」に着目する.近年,進展の目覚ましい量子情報科学の観点のみならず,様々な現象において量子もつれの重要性が指摘されつつあるが,その測定手法はまだ未開拓であり,実験的な研究が進んでいない.そこで我々は独自に考案・開発した物質の密度行列を測定する分光手法である「密度行列分光法」を用いて,固体中の電子状態(特に励起子系)の量子もつれを定量化し,その物性とダイナミクスを実験的に究明する.量子もつれは電子などの量子同士の相互作用に深く関係した量であり,固体の様々な物性や量子現象の解明に大きく貢献することが期待できる.
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研究実績の概要 |
昨年に引き続き,偏光と周波数の物理量に対する量子もつれについての研究をそれぞれ進めている.したがって,本年度の主な研究成果を以下2つに分けて示す.
[I]偏光量子もつれに着目した励起子分子の量子もつれダイナミクス:これまで半導体励起子分子に内在する量子もつれについて偏光(スピン)自由度に着目したDMSにて測定を行ってきた.特に本年度は,これまで研究した励起子分子の散乱とは別の過程に着目して研究を行った.新たに着目した散乱過程では,励起子分子から光子様ポラリトンと励起子様ポラリトンへと分裂する.特に,励起子様ポラリトンはほぼ励起子とみなせる状態であり,群速度が非常に遅く結晶中に長くとどまることが知られている.本研究ではこの分裂した2量子間の量子もつれを調べた結果,これまで測定されてきた励起子分子の量子もつれより有意に低いTangle(量子もつれの度合い)の値を示すことが明らかとなった.励起子分子に関する量子もつれがこの様に変化(減衰)する様子は今回初めて観測された.
[II]周波数量子もつれに着目した励起子分子,2励起子重ね合わせ状態のダイナミクス:励起子分子における周波数量子もつれに着目し,これを観測するための二光子吸収型の周波数領域DMSを開発し,本年度初めて測定に至った.その結果,周波数領域の密度行列の測定及びそこから周波数の量子もつれの定量化に初めて成功した.励起子分子から放出された二光子については周波数相関や二光子干渉を測定した例はこれまであったが,周波数の量子もつれを定量化しこれを明らかにしたのは本研究が初めてである.また,GaAs量子井戸に対してポンプ・プローブ型の周波数領域DMSも引き続き行い,昨年度より精度の高い結果を得るに至った.また,得られた密度行列から量子コヒーレンスとその変化を定量化する解析を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
半導体CuCl中の励起子分子に内在する量子もつれについて,四光波混合型のDMSを用いてた測定を引き続き行った.本年度は特に,これまで研究してきた励起子分子の散乱とは別の散乱過程に着目した.新たに着目した散乱過程では,励起子分子から光子様ポラリトンと励起子様ポラリトンへと分裂する.光子様ポラリトンは群速度が早く散乱後すぐに結晶外へと抜け出す一方で,励起子様ポラリトンは群速度も3桁ほど遅く,ほぼ励起子の状態として結晶中に長く留まる.これにより,この散乱過程では,励起子分子が崩壊した後に光子と励起子の状態とみなせる状況となる.これら2つの量子間の偏光(スピン)の密度行列を測定した結果,量子もつれが確認されたものの,これまで測定された励起子分子の量子もつれより明らかに低いTangle(量子もつれの度合い)を示すことを初めて見出した.これは,励起子が結晶中で緩和することが原因であると考えられるが,今後詳細な検証と解析が必要である. 一方で周波数領域の実験においては,二光子吸収型の周波数領域DMSの系を完成させ,同じく励起子分子に対する測定を行った.その結果,2周波に限定した測定ではあるが,励起子分子が周波数の量子もつれを有することを初めて測定するに至った. 励起子分子から放出された2光子に関しては,これまで周波数相関や二光子干渉の実験がなされてきたが,密度行列を測定し量子もつれとして定量化した例はこれが初めてであり意義深いものである.また,GaAs量子井戸に対してポンプ・プローブ型の周波数領域DMSも引き続き行った.昨年度より導入した位相スペクトルを含めた超短パルスの評価装置であるSPIDERを用いることにより,より精度の高い測定が可能となった.また,得られた重い正孔励起子・軽い正孔励起子間の密度行列から,量子コヒーレンスとその時間変化を定量化する解析手法を検討し,進めている.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は,引き続き以下の内容を推進する.
[I]偏光の量子もつれについて:昨年度得られた量子もつれの変化をより明確に議論するために更に精度の良い実験をすること,また密度行列の変化量を量子プロセスを仮定して定量化することを試みる.この手法で得られるものは,ダイナミカルルマップや量子演算として量子情報の分野で知られており,密度行列の時間発展などを記述できる.これを検討することにより,量子もつれの時間的変化について,具体的に励起子の緩和などと比較してモデルを構築し,その関係を明らかにすることが期待できる.
[II]周波数量子もつれについて:これまでに得ている励起子分子の周波数量子もつれの結果は2準位に限定した測定であり,これを3準位,多準位へと次元を増やすことを計画している.また,偏光の量子もつれの実験で構築した四光波混合型のDMSにより周波数量子もつれの時間変化の測定を試みる.また,偏光と周波数の相関を同時に得ることにより,それら2つの物理量が同時に量子もつれとなっている「ハイパー量子もつれ」についての観測を行う予定である. また,一方でGaAs量子井戸系で研究を進めている2種類の励起子の量子重ね合わせ状態についても,これまでは励起子に共鳴した2準位に限った測定を行ってきたが,これを多準位の測定に拡張する.これにより一般的な周波数領域の密度行列の測定が可能となる.また,得られた密度行列から,情報エントロピーなどの量子情報分野で確立されつつあるいくつかの情報量を得ることで解析を行う.これにより量子コヒーレンスやその変化について定量的な議論を行う.
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