研究課題/領域番号 |
21H01031
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
服部 一匡 東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (30456199)
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研究分担者 |
柳 有起 富山県立大学, 工学部, 准教授 (70634343)
石飛 尊之 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 博士研究員 (50982831)
楠瀬 博明 明治大学, 理工学部, 専任教授 (00292201)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2021年度: 7,410千円 (直接経費: 5,700千円、間接経費: 1,710千円)
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キーワード | 四極子 / 強相関系 / 多重q秩序 / 交差応答 / 四極子秩序 / トリプルq秩序 / 異常ホール効果 / 非線形応答 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,電子の異方的な電荷の自由度である四極子についての研究を5年間にわたって行う.この四極子という固体中の電子に特有の自由度は,様々な物質の低温物性に重要な役割を果たしていることが最近になって明らかになりつつある.特に,近年注目を集めている電気トロイダル四極子秩序,四極子が関連する超伝導やmultiple-Q秩序,四極子近藤格子模型の解析を集中的に行い,四極子が物質にもたらす新しい側面と未知の物性について明らかにすることが目標である.
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研究実績の概要 |
(1)UNi4Bにおける四極子間相互作用に誘発されるtriple-q部分磁気秩序:UNi4Bの磁気秩序は中性子散乱実験により磁気トロイダルモーメントの秩序(トロイダル秩序)であると考えられてきたが,近年観測された電流誘起磁化の異方性が理論予測と合致しないことで秩序変数の再考がなされ始めていた.我々は,中性子散乱実験と電流誘起磁化の異方性を統一的に説明できる秩序が,トロイダル秩序と同じ波数のトリプルq秩序構造の中の位相因子を補正したもの(トライフォース秩序)であることを明らかにした.トライフォース秩序には,最近報告された活性な四極子が重要な役割を果たしており,秩序波数と四極子-磁気双極子結合を仮定すると二つの秩序が自然に現れることを見出した. (2)単位胞間空間変調を持つ磁気構造の多極子展開による特徴付:α-MnやCoT3S6 (T=Nb, Ta)への応用:多極子展開法を単位胞の間にまたがる磁気秩序について定式化し,第一原理計算に適用できる磁気構造生成法を提案した.この方法により,最近注目されているα-MnやCoT3S6 (T=Nb, Ta)における大きな異常ホール効果について磁気構造の候補を提案した.また,それらの秩序下で実現することが期待される応答について解析を行い,理論的な予言を提唱した. (3)カイラル結晶における電気トロイダルモノポールとその応答:カイラル結晶中では鏡映対称性が破れており従って反転中心が存在しない.このような対称性を持つ物質は古くから知られていたが,その性質について系統的な理論的な解析はこれまでなされていなかった.多極子展開法を用いることで,カイラル結晶を特徴づける秩序変数は電気トロイダルモノポールであることを指摘し,特徴的な格子振動,外場応答などの基礎理論について定式化を行った. (4)その他各種多極子秩序による新奇物性の提案
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記研究実績の概要(1)の研究については,東京都立大学の大学院生とともに詳細な理論解析と実験結果の比較検討を行い,ランダウ理論を基礎とした一般論と微視的な平均場近似による解析,および対称性に関する群論的考察までをまとめることができた.研究実績の概要(2)についても,第一原理計算に応用できる多極子展開の新手法を定式化することで,より一般の物質,秩序についての解析の道を開く重要な成果と考えることができる.研究実績の概要(3)に関しては特に四極子に特化したものではないが,関連する研究分野の成果として,世界的にも重要な新知見を得ることに成功している.今後もカイラル結晶の物性は爆発的な発展が期待されており,大きなブレークスルーと考えている.上記研究実績の概要(4)の詳細は書ききれないため割愛したが,様々な実験結果が現在進行形で報告され続けており,多極子を切り口に理論解析を行い,実験グループにフィードバックをかけることや,新しい物性予測の提案ができている.また,実験グループとの共同研究も進みつつある.これらの成果により,本課題の主要テーマである四極子に関連する研究についても多くの新しい知見が応用されることが期待される.以上の状況から,研究進捗状況としては順調であると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
概ね順調に進んでいると思われるが,昨年度にほぼ研究が完了したものの中で,現時点で論文投稿が完了していないものがいくつか存在する.それらは,三角格子上の四極子模型の古典モンテカルロ解析やURhSnの隠れた秩序状態の解明に関する研究,およびダブルペロブスカイト化合物における軌道秩序の問題などである.これらについては23年度前半に論文投稿を完了し年度内に出版できるように努力する. 一方,種々の事情により今年度から本課題の研究体制を少し変更する必要が出てきた.本課題において理論解析担当であった楠瀬の代わりに,新しく石飛を研究分担者に加えることになっている.多極子について造詣の深い新分担者とともに本課題の残りの期間の研究を推進していく.具体的には,当初の研究計画に挙がっている四極子自由度の観測についての理論定式化やCdパイロクロア化合物における応答理論などの他に,これまでの研究で新たに重要な課題として浮上してきたPrIr2Zn20における多重q四極子秩序の解析や,種々の多極子秩序のドメイン構造により発現する界面状態の解析なども含めて研究を進めていく.
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